券売機の入れ替えを検討したら、見積書は80万円。
業者さんには「補助金が使えますよ」と言われたものの、どの制度のことで、いつまでに何をすればいいのかは分からないまま——大分市内の飲食店でよくある場面です。
結論から申し上げます。大分の事業者が使えるIT支援策は国・県・市の3層。
どれを選ぶかは、制度の大きさではなく「何を買うか」と「いつ必要か」で決まります。
この記事では2026年9月時点で動いている制度を3層に整理し、自社に合うものを絞り込む判断軸までをお伝えします。
大分のIT支援策は「国・県・市」の3層でできている

3層それぞれの性格の違い
同じ「IT導入への補助」でも、実施主体によって性格が違います。
| 層 | 代表的な制度 | 規模感 | 難易度・スピード |
|---|---|---|---|
| 国 | デジタル化・AI導入補助金 | 補助額150万〜350万円 | 審査あり。全国と競争 |
| 県 | 大分県中小企業等デジタルツール導入補助金 | 上限25万〜30万円 | 専門家の伴走とセット |
| 市 | 大分市小規模事業者競争力強化支援事業補助金 | 上限30万〜40万円 | 対象は市内の小規模事業者 |
用語を2つだけ。
補助率は「費用のうち何割が補助されるか」、上限額は「計算結果がいくら大きくてもここまで」という天井です。
補助率2/3・上限40万円なら、60万円の買い物で40万円。120万円でも40万円までです。
「大きい補助金=得」とは限らない理由
金額だけ見ると国の制度が魅力的です。ただ全国の事業者と審査で競う仕組みで、後述のとおり採択率は4割台。登録されたIT導入支援事業者と組む必要もあり、準備に時間がかかります。
30万円の投資のために、通るか分からない審査へ何十時間もかけるのは合理的とは言えません。
投資額が小さいうちは市や県の制度から検討するほうが、費用対効果は高くなります。
補助金を使わず始められる改善も少なくありません(Excelから始める身近なDXの形)。
【市】小さく始めるなら、まずここ
大分市内の小規模事業者にとって最も現実的な選択肢が大分市小規模事業者競争力強化支援事業補助金です。
DX推進枠は補助率2/3・上限40万円
一般枠(補助率1/2・上限30万円)とDX推進枠(補助率2/3・上限40万円)があり、IT投資ならDX推進枠が対象。
使える経費は次の4種類です。
- ソフトウェア導入費:会計ソフト、予約管理システム、顧客管理システムなど
- 機器導入費:キャッシュレス機器、POSレジ、券売機、自動販売機(自社製品の販売のみ)、ロボット、電子看板、ドローン
- DX広報費:Web広告、電子看板で流す広告の作成費
- ウェブサイト構築費:ホームページやECサイトの構築・更新費
対象は市内に事業所を持つ小規模事業者。
常時使用する従業員が卸売業・小売業・サービス業は5人以下、宿泊業・娯楽業・製造業その他は20人以下。
創業から12か月経過、市税完納も条件です。
冒頭の券売機の例なら、この枠にきれいに収まります。
美容室が予約管理をノートからアプリに変える場合も、月額数千円だからと諦める必要はありません。
ソフトウェア導入費として検討の余地があります。
注意したいのがウェブサイト構築費です。
令和8年度から、この経費はDX推進枠内の他の経費と併用する場合にのみ申請できる形に変わりました。
「ホームページを作り直したい」だけでは使えません。
旅館や小売店が計画を立ててから気づき、申請直前に組み直す——という事故が起きやすい部分です。
見落としがちな「エントリー制」という関門
つまずく方が最も多いのが、申請の前にエントリーという事前登録が要る点。
希望者が多い場合は抽選で当落と申請順位が決まります。
令和8年度のスケジュールは次のとおりです。
| 前期 | 後期 | |
|---|---|---|
| エントリー | 4月6日〜4月20日 | 8月3日〜8月17日(終了済み) |
| 申請受付 | 5月25日〜7月3日 | 9月28日〜10月23日 |
2026年9月時点で、後期のエントリー期間はすでに終了しています。
読者の方は次のどちらかに当てはまるはずです。
後期エントリーを済ませている方は、9月28日からの申請受付に向けて準備を進める時期です。
見積の取得(税込30万円超は市内業者を含む2者以上が必要)と導入計画の整理を、10月23日の締切から逆算して動いてください。
エントリーを逃した方、この記事で初めて知った方は、残念ながら今年度の申請はできません。
次は次年度前期のエントリー(例年4月上旬)です。
半年先に感じるかもしれませんが、逆に言えば準備の時間が十分にあるということ。
導入するものを固め、複数業者から見積を取り、4月に迷わず動ける状態にしておく。
知るのが遅いと1年待ちになる制度なのです。
なお研修費用には同じ大分市の別制度(中小企業者経営力強化促進補助金の人材育成応援事業)が使えます。
DX関連の研修は補助率2/3、令和9年3月31日まで通年で申請可能です(予算額に達し次第終了)。
詳しくは大分市中小企業者経営力強化促進補助金2026年完全ガイド、自社で組み立てる方法は補助率2/3を使う「自主研修」の作り方へ。
自社が対象になりそうか判断がつかない方へ。10項目で対象かどうかその場でチェックできます。
【県】大分県ならではの「上乗せ」と「相談窓口つき」の制度
大分県の制度には、他県で見ない特徴が2つあります。
国の補助金に県が上乗せする仕組み
1つ目が上乗せ。国の補助金に採択された事業者へ、県が独自に補助を積み増す仕組みです。
デジタル化・AI導入補助金のインボイス枠(インボイス対応類型)に採択されると、国の2/3以下に県の1/12が加わって合計で補助率3/4、上限約430万円になります。
省力化投資補助金のカタログ注文型なら国1/2以下+県1/4で3/4、上限2,250万円です。
条件は県が定める賃上げ要件(従業員の給与を一定水準以上引き上げること)を満たすこと。
申請は国の事業終了後、額の確定通知を受け取ってから令和9年1月29日までに県事務局へ。
国を狙うなら、この上乗せを最初から計算に入れると資金計画が変わります。
相談とセットで使うデジタルツール導入補助金
2つ目が大分県中小企業等デジタルツール導入補助金です。
通常枠は補助率2/3・上限25万円、賃上げ枠は3/4・上限30万円。
対象はソフトウェア導入費、クラウドサービス利用料、導入設定・移行・連携構築費などです。
重要な点です。この補助金は単独では申請できません。
県の「中小企業等DX総合支援プログラム」(ONE OITA)に参加し、専任のDXコンサルタントの伴走支援を受けたうえで、その中でツール導入が適当と判断・合意された場合にのみ申請できます。
補助金の窓口に直行しても受け付けてもらえません。
裏を返せば、相談から申請書類の作成まで面倒を見てもらえる制度ということ。
相談とヒアリングは無料で、由布市商工会や大分銀行の担当者を含む7名の専門家が各社1名ずつ伴走します。
令和8年度は個人事業主も対象です。
実施期間は令和8年6月22日から令和9年3月末頃まで。
ただし明示的な申込期限は公表されていません。
公式サイトに「参加事業者の状況によってはお申込み受付の終了が早まる場合があります」とあり、年度末まで待てる制度ではないとお考えください。
2026年9月時点では「申込み受付中」の表示です。関心があるなら早めに動くのが正解です。
なおウェブサイトの作成・改修やデジタル広告は対象外。
市の制度との違いとして押さえておいてください。
【国】デジタル化・AI導入補助金は何が変わったのか
名称が変わり、AI活用が前に出た
長く「IT導入補助金」と呼ばれた制度は、令和7年度補正予算事業からデジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)に名称変更されました。
過去に検討した方ほど、気づいていないケースがあります。
2026年9月時点で公募中の締切は次のとおりです。
- 第5次:2026年9月29日(火)17:00(通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠)
- 複数者連携デジタル化・AI導入枠:2026年10月30日(金)17:00
第6次以降の締切は、2026年9月時点では公表されていません。公式サイトは確定した募集回のみを掲載する運用のため、検討中の方は定期的に確認してください。
なお2026年8月27日付で公募要領が改訂され、スマートレジの取扱いや通常枠の加点項目、セキュリティ対策の審査事項が見直されました。
補助率・上限額・対象経費・締切に変更はありません。
採択率が示す「通れば大きいが、通らないこともある」現実
国の制度を検討するなら、採択率は必ず頭に入れておいてください。
2026年9月2日公表の3次締切分は、申請5,913者に対し交付決定2,601者で採択率43.99%。
枠別では通常枠42.19%、インボイス枠(インボイス対応類型)44.73%、セキュリティ対策推進枠72.22%でした。
1次締切は46.3%、2次締切は51.5%でしたから、回を追うごとに競争が厳しくなっています。
申請すれば通る制度ではない前提で、審査に耐える計画が要ります。
考え方は補助金採択率を上げる!専門家が教える「説得力のある事業計画」の書き方にまとめています。
結局どれを選ぶ?3つの判断軸と共通ルール

判断軸1「何を買うか」
買うものによって受け皿が違います。
- POSレジ・券売機・キャッシュレス機器 → 市のDX推進枠
- 会計ソフト・予約管理などのソフト、クラウドサービス → 市のDX推進枠、または県のデジタルツール導入補助金
- ホームページ・ECサイト → 市のDX推進枠(併用が条件)。県は対象外
- 数百万円規模のシステム・省力化設備 → 国+県の上乗せ
判断軸2「いつ必要か」
市の制度はエントリーを逃すと次の機会まで待つことに。
県は通年ですが早期終了があり得ます。
国は年に複数回の締切があります。
急ぐなら国、時期が読めるなら市という整理が実務的です。
判断軸3「誰と組むか」
県はDXコンサルタントの伴走が前提、国は登録されたIT導入支援事業者との連携が前提。
市は自社単独で申請できます。
相談相手が要るかどうかで、動き出すまでの時間が変わります。
制度をまたいで効く2つの共通ルール
1つ目、交付決定の前に発注・契約・支払いをしたものは対象外です。
「補助金が使えるらしいから」と先に発注すると、後から申請しても1円も出ません。
交付決定とは「この事業に補助金を出します」という正式通知。
これを受け取ってから動くのが鉄則です。
2つ目、同じ経費に複数の補助金を重複して受けることはできません。
県の上乗せのように併用が設計されているものは別ですが、それ以外は原則不可。
実務で最も事故が起きるのがこの2点です。
さらに多くの補助金は精算払いです。
事業終了後に実績報告(何にいくら使ったかの報告)を出し、確認を受けてから入金されます。
大分市なら事業終了後30日以内、遅くとも2027年2月26日が期限。
費用は先に自社で立て替える前提で資金繰りを組んでください。
まとめ
- 大分のIT支援策は国・県・市の3層。選ぶ基準は金額の大きさではなく「何を買うか」と「いつ必要か」
- 市の補助金は補助率2/3・上限40万円。ただし後期エントリーは終了済みで、次は次年度前期(例年4月上旬)。今から準備する価値があります
- 県は単独申請不可で相談とセット、国は採択率4割台。共通ルールは「交付決定前の発注は対象外」「同一経費の重複受給は不可」
大分で使える支援策を目的別に整理した補助金・支援制度まとめもご活用ください。
最後に一点。補助金は「使えるから使う」ものではなく、必要な投資を後押しする道具です。
のべ1,500件を超えるご相談の中で、補助金ありきで組んだ計画がうまくいかない例も見てきました。
何を導入すべきかの段階からご相談いただけます。
書類作成まで伴走が必要な方は補助金申請・事業計画支援へ。
※本記事は2026年9月時点の公開情報にもとづきます。
補助率・上限額・締切・要件は年度や公募回で変更されます。
申請前に必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。
レジの入れ替えを検討されている方は、通常の交付申請とは別に事前着手制度が使える場合があります。2026年9月15日以降に導入したスマートレジ・POSレジ改修を後から申請できる特例です。詳しくはレジは今買っても補助対象になります【消費税減税・事前着手制度】で解説しています。