創業50年の和菓子店。72歳の店主には息子さんがいますが、県外で会社勤めをしています。
そんなところへ、M&A仲介会社から「御社に関心を持つ企業があります」というダイレクトメールが届きました。
売るつもりがあるわけでもない。
でも、このまま何もしないのも不安だ。
そもそも、誰に相談すればいいのか。
結論から申し上げます。大分には事業承継の専門の公的窓口が、無料であります。
まだ何も決めていない段階こそ、そこから始めるのが順番です。
民間の支援会社に頼むのは、何をしたいかが決まってからで遅くありません。
この記事では、無料でどこまでやってもらえるのか、どこから費用が発生するのかを、はっきりさせます。
まず、大分県事業承継・引継ぎ支援センターに相談できます

無料・秘密厳守・完全予約制
国が設置した、事業承継専門の公的窓口です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 〒870-0026 大分市金池町3丁目1番64号 大分県中小企業会館5階 |
| 電話 | 097-585-5010(平日9:00〜17:00/年末年始を除く) |
| メール | contact@oita-hikitsugi.go.jp(受付のみ) |
| 予約 | 完全予約制。電話またはWebフォーム(24時間365日受付) |
| 相談料 | 無料(専門家による個別支援も無料。ただし回数に上限あり) |
初回の面談は原則センターで行われますが、Microsoft Teamsを使ったオンライン相談や、県内への出張にも対応しています。
子に継ぐ・従業員に継ぐ・売る、どれでも相談できます
「事業承継の窓口」と聞くと、売却(M&A)の話だと思われがちですが、違います。
センターの支援メニューは大きく次のとおりです。
- 親族内承継支援——登録専門家が課題を整理し、事業承継計画の策定を手伝う
- 第三者承継支援——いわゆるM&A。譲渡先探しから契約まで
- 後継者人材バンク——創業を希望する人と、後継者のいない事業者を引き合わせる
- 相談会——「はじめの一歩相談会」「税務・法律相談会」「自治体・出張相談会」
まだ方針が決まっていなくても相談できるのが、この窓口の一番の価値です。
「息子に継がせたいが、本人の気持ちが分からない」という段階で構いません。
年間558件の相談、83件の成約(2025年度)
実績も公表されています。
| 年度 | 相談者数 | 成約件数 | 第三者承継 | 親族内承継 |
|---|---|---|---|---|
| 2021 | 442 | 69 | 30 | 39 |
| 2022 | 437 | 72 | 35 | 37 |
| 2023 | 529 | 80 | 44 | 36 |
| 2024 | 480 | 73 | 39 | 34 |
| 2025 | 558 | 83 | 38 | 45 |
注目していただきたいのは、2025年度は親族内承継(45件)が第三者承継(38件)を上回っている点です。
「センター=会社を売るところ」ではない、という何よりの証拠です。
近くの市町村で出張相談会もあります
センターまで出向かなくても、県内の市町村で出張相談会が開かれています。
6月から3月にかけて実施され、大分市・別府市は年10回程度です。
費用は一切かからず、1事業者あたり1時間。 申込は各市町村の担当窓口です。
「いきなり専門機関に行くのは気が重い」という方には、こちらから始めるのが現実的です。
無料でどこまで、どこから費用がかかるのか

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
センターの支援は無料。ただし回数に上限があります
センターの相談も、登録専門家による個別支援も無料です。
ただし公式には「1事業者あたりの相談回数に上限がある」とされています(具体的な回数は公表されていません)。
無制限に伴走してもらえるわけではないので、相談に行くときは聞きたいことを整理してからにしましょう。
なお、企業概要書の作成、株価の算定、デューデリジェンス(買い手による調査)、基本合意書の作成といった実務をどこまで無料で支援してもらえるかは公表資料から確認できませんでした。
ご自身の案件で必要になる作業については、最初の相談で直接確認してください。
民間の支援会社と契約すると、その時点から費用が発生します
センターに第三者承継を相談すると、進め方が2つに分かれます。
A. 民間の支援会社の紹介を希望する場合
センターに登録している金融機関や民間のM&A仲介会社を紹介してもらえます。ただしその支援会社と契約した時点から、各社の手数料が発生します。
B. 紹介を希望しない場合
センター公式には、譲渡価格が小さく支援会社への依頼が費用に見合わないケースとして、センターと登録専門家(弁護士・会計士・税理士など)が連携し、譲渡までの手続きや契約書の作成などを手伝う道が示されています。
A・Bいずれの場合も、契約書作成・株価計算・税務上のアドバイスなどを専門家に依頼すると、一定の費用がかかる場合があります。
小さな会社ほどセンター主導で進める道があります
ここは仲介会社の記事にはまず書かれていません。
町の中華料理店で、常連客から「この味を残してほしい」と言われている。
店舗と設備ごと引き継いでくれる人を探したい。
こういう案件は、譲渡額が小さく民間の仲介に頼むと手数料のほうが高くつくことがあります。
そういうときに、上のBという選択肢があります。
まずセンターに「うちの規模でも相談していいのか」と聞いてみてください。
答えは聞かないと分かりません。
民間のM&A仲介に頼むといくらかかるのか
手数料は4つの種類があります
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、手数料として次の種類が挙げられています。
- 着手金——契約時に支払う
- 月額報酬(リテーナーフィー)——毎月支払う
- 中間金——基本合意などの段階で支払う
- 成功報酬——成約時に支払う
どれを取るかは業者によって違います。「成功報酬のみ」をうたう業者もあります。
また報酬の計算の基礎(譲渡額/移動総資産額〈譲渡額+負債〉/純資産額)も業者ごとに異なります。
同じ「5%」でも、何に対する5%かで金額が変わります。
「料率5%」でも1,100万円になることがあります
中小企業庁のガイドラインには、具体的な計算例が載っています。
譲渡額5,000万円の株式譲渡で、成功報酬のみのレーマン方式(5億円以下の部分は5%)、最低手数料1,000万円(税抜)という条件の場合——
- 料率どおりに計算すると、成功報酬は275万円(税込)
- ところが最低手数料1,100万円(税込)が適用され、手数料の総額は1,100万円
- 手取りは3,900万円
料率で考えていた金額の4倍です。
ここを知らずに契約すると、成約してから青ざめることになります。
国の補助金で一部を補える場合があります
ただし、民間に頼む費用を国が補助する制度もあります。
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、条件を満たせば仲介手数料(成功報酬を含む)も補助対象になります。
「M&Aの仲介手数料は補助対象外」という説明を見かけますが、この枠については正しくありません。
条件があります。M&A支援機関登録制度に登録された専門家への支払いであること、最終契約書を締結すること、そして委託契約は交付決定日以降であること。
つまり先に契約してしまうと対象外です。
制度の詳細は国の事業承継・M&A補助金と大分市の制度、どちらを使う?をご覧ください。
大分市にも専門家費用を補助する制度があり、こちらは事業承継の専門家費用を大分市が補助。最大50万円の「事業承継等支援事業」の使い方で解説しています。
状況別・最初に相談する先
整理するとこうなります。
| あなたの状況 | 最初の相談先 |
|---|---|
| まだ何も決めていない | センター(または市町村の出張相談会) |
| 子・親族に継がせたい | センター(事業承継計画の策定支援)+ 顧問税理士(相続・贈与税) |
| 従業員に継がせたい | センター + 取引金融機関(株の買取資金・経営者保証) |
| 第三者に売る(譲渡額が小さい) | センター主導で進める道を相談 |
| 第三者に売る(相手探しを広く) | センター経由で登録支援機関、または民間の仲介・FA |
| 後継者がいないが続けてほしい | 後継者人材バンク(センター) |
金融機関・商工会議所・士業の役割
センター以外にも窓口はあります。
取引のある金融機関は、大分県事業承継ネットワークの構成機関です(日本政策金融公庫、商工中金、大分銀行、豊和銀行、大分信用金庫、大分みらい信用金庫、日田信用金庫、大分県信用組合)。
従業員承継で株の買取資金が要る場合や経営者保証の扱いは、金融機関抜きには進みません。
大分商工会議所(経営支援課 097-536-3208)は、センターと連携して事業承継の個別相談会を実施しています。
大分県よろず支援拠点(097-537-2837)も無料の経営相談窓口です。
士業については、相続・贈与税は税理士、契約や法務は弁護士、というように役割が分かれます。
私たち中小企業診断士は、事業承継計画づくりや承継後の経営改善、補助金の活用といった場面で関わります。
どの専門家に何を頼むかの考え方は、大分で経営コンサル・中小企業診断士をどう選ぶか。依頼する側の判断基準で整理しています。
民間に頼むときに確認すること

それでも民間の支援会社に依頼する場面はあります。
そのときの確認事項です。
登録業者かどうか
中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録しているかを確認してください。
登録業者は毎月公表され、申請時に手数料体系の報告が求められています。
国の補助金(専門家活用枠)を使う場合も、登録業者であることが条件です。
ただし登録は「国のお墨付き」ではありません。
一定の要件を満たして届け出ている、という意味です。
登録しているから安心、と考えないでください。
自社の想定額で総額いくらになるかを書面でもらう
先ほどの計算例のとおりです。
「自社の想定譲渡額なら、手数料の総額はいくらになるのか」を契約前に書面で出してもらってください。
ガイドラインは、仲介者・FAに対して契約前に手数料の算定基準・業務内容・業務の質を説明することを求めています。
これを渋る相手とは契約しないほうがよいでしょう。
契約期間とテール条項
テール条項とは、契約が終わった後も一定期間その業者が紹介した相手と成約した場合に手数料がかかる、という定めです。
ガイドラインでは、テール期間は最長2〜3年以内、対象はネームクリア(名前を開示して紹介)された相手に限るのが望ましいとされています。
契約書にこの条項があるか、期間と対象範囲はどうなっているかを必ず確認してください。
迷ったら、センターに戻って相談を
ガイドラインは仲介者・FAに対し、弁護士や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談も選択肢であることを説明する義務を課しています。
つまり、民間と話を進めている最中でも、センターにセカンドオピニオンを求めてよいということです。
提示された条件に不安があれば、遠慮なく相談してください。
まとめ
大分で事業承継を考え始めた方に、お伝えしたいことは3つです。
- まず大分県事業承継・引継ぎ支援センター(097-585-5010)へ。無料・秘密厳守・完全予約制で、親族内承継も第三者承継も相談できます
- 費用が発生するのは、民間の支援会社と契約した時点から。 譲渡額が小さいなら、センター主導で進める道もあります
- 民間に頼むなら、自社の想定額での手数料総額を書面でもらう。 料率5%でも、最低手数料で1,100万円になる例が国の資料に載っています
事業承継は、決めるまでに何年もかかるものです。
だからこそ、無料で何度か相談できる公的窓口から始めてください。
なお本記事は2026年10月時点の情報です。
制度や窓口の内容は年度や時期によって変更されますので、最新の情報は各機関にご確認ください。
承継の前に「社長の頭の中にしかない仕事」を見える化しておくことも、立派な準備です。
属人化からの脱却。「社長しか知らない」をなくすマニュアル共有術もあわせてどうぞ。
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