臼杵は、味噌・醤油の醸造、水産加工、そして農業。
手間をかけた仕事が価値になる産業が集まる土地です。
そうした現場でよく伺うのが、この言葉です。
「機械を入れる余裕はないし、入れたところでうちの仕事は機械にはできない」
その通りだと思います。
麹の状態を見極める目もその日の魚の質を判断する手も、機械には置き換えられません。
ただ、生産性向上とは「人の仕事を機械に置き換えること」ではありません。
本来の腕が必要な仕事に時間を回すために、そうでない時間を削ることです。
この記事では、大きな設備投資をせずに臼杵の製造業・農家が今日から始められる生産性向上の手順をお伝えします。
まず現状を知る:時間はどこに消えているのか

「作業時間」より「作業以外の時間」を疑う
製造や農作業の現場を拝見すると、手が止まっている時間の大半は作業そのもの以外にあります。
- 材料や道具を探している
- 前工程の終わりを待っている
- 注文内容を電話で確認している
- 帳面に記入し、あとで清書している
- 「あれ、どうなってる?」と人を探して聞きに行く
このどれも、腕とは関係のない時間です。
ここが削減の対象になります。
1週間だけ時間を記録してみる
いきなり改善に手をつける前に、1週間だけ記録をとってください。
難しいことはしません。
スマホのメモに、「作業以外で手が止まったこと」と「その理由」を一行書くだけです。
声で入力すれば10秒で済みます。
9/2 10:15 部材を探した 15分 前の担当者が別の棚に戻していた
9/2 14:40 注文数の確認電話 10分 FAXの字が読めなかった
9/3 08:30 前日の作業実績を清書 20分
1週間分たまると、同じ理由が何度も出てくることに気づきます。
回数の多い順に手をつける——これが最も確実な進め方です。
打ち手1:受注の入口を1本にまとめる(食品製造業)
臼杵の食品製造業の方から最も多いご相談が、これです。
FAX、電話、メール、さらに直接の口頭。
受注の経路がバラバラで、確認と転記に時間が溶けている。
なぜこれが最大の課題なのか
受注の経路が4つあると、4か所を毎回確認する必要があります。
1か所でも見落とせば欠品や誤出荷になり、その対応にさらに時間がかかります。
しかも、この確認作業は熟練者ほど任されがちです。
腕のある人の時間が、電話の取り次ぎに消えていきます。
現実的な進め方
いきなり「FAXをやめます」と通知するのは、取引先との関係上おすすめできません。
受け取り方は変えず、記録先だけを1本化します。
- 受注をどの経路で受けても、必ず同じ1つの表(クラウド上のスプレッドシート等)に転記する
- その表を、製造・出荷・請求のすべてがそこだけ見る運用にする
- 慣れてきたら、取引先ごとに順次、注文の方法を切り替えてもらう
まず「見る場所を1つにする」。
これだけで確認漏れは大きく減ります。
(脱FAXの進め方はこちら)
打ち手2:記録を「その場・一度だけ」にする
現場での記録を紙に書き、事務所で清書する——この二度手間は、製造業と農業の両方で非常によく見られます。
スマホの音声入力で、その場で終わらせる
手が汚れている、手袋をしている、寒い。
現場でキーボードを打つのは現実的ではありません。
そこで有効なのが音声入力です。
スマホのキーボードにあるマイクのアイコンを押して話すだけで、文字になります。
アプリの追加も費用も不要です。
「9月3日、第2タンク、温度28度、香り良好、明日撹拌予定」
これを話すだけで記録が残ります。
清書の時間はゼロになります。
(報告書のスマホ入力はこちら)
写真を記録の主役にする
農作物の生育状況、仕込みの様子、機械の異常箇所。
写真1枚は、文章100文字より正確です。
その日の日付と場所を入れたファイル名で保存しておけば、翌年の同じ時期と比較できる貴重な記録になります。
醸造や農業のように、1年周期で判断する仕事ほど、この蓄積が効きます。
(書類・写真のデジタル保存はこちら)
打ち手3:「あの人しか知らない」を減らす
臼杵の醸造業や水産加工には、何十年もの経験に支えられた判断があります。
これをマニュアル化することはできません。
ですが、判断の前提となる情報は共有できます。
記録できることと、できないことを分ける
| 記録できる(共有すべき) | 記録できない(人が担う) |
|---|---|
| 仕込みの日時・温度・湿度 | 「そろそろだ」という見極め |
| 使用した材料と分量 | 香りや手触りでの判断 |
| 例年の同時期のデータ | その日の天候を踏まえた微調整 |
| 取引先ごとの納品条件 | 顧客との信頼関係 |
左側を記録に残すだけで、右側の判断の質は上がります。
ベテランの方も「去年の今頃はどうだったか」をすぐ確認できるようになるからです。
そして左側が残っていれば、後継者が育つ速度が変わります。
これは事業承継を考える段階で、決定的な差になります。
(属人化の解消はこちら)
打ち手4:農業の現場でできること

作業記録は、補助金と販路の両方に効く
農業の作業記録(いつ、何を、どのくらい使ったか)は、面倒な事務作業と捉えられがちです。
しかしこの記録は、次の2つに直結します。
- GAP認証や取引先の求める記録——量販店や輸出向けでは必須になりつつあります
- 消費者への説明材料——「どう育てたか」を語れることが、そのまま価格の根拠になります
記録を負担ではなく資産と捉え直すと、続ける意味が変わります。
直販・ネット販売を小さく試す
臼杵の農産物や加工品は、物語のある商品です。
これはネット販売と非常に相性が良い。
いきなり本格的なネットショップを作る必要はありません。
まずは無料または低額で始められるネットショップサービスで、1〜2品目だけ出してみるのが現実的です。
- 売れる数より、「どう説明すると買われるか」を学ぶことが目的
- 発送作業の手間を実際に体験してから、規模を判断する
小さく試して、続けられると分かってから広げる。
これが失敗しない順序です。
(低コストでDXを進める方法はこちら)
天候・作業予定の共有をLINEで
家族経営や少人数の農家では、その日の作業指示が口頭になりがちです。
LINEのグループに「今日はこの畑、この作業」と一言送るだけで、朝の集合時間の短縮や伝達ミスの防止につながります。
生産性向上の進め方は、無料セミナーでも事例を交えてお伝えしています。
設備投資を検討する段階になったら
記録と情報共有が定着してから、初めて設備投資を検討します。
この順番が重要です。
現状が記録されていない状態で機械を入れると、何がどれだけ良くなったか検証できません。
効果が見えないまま、次の投資判断もできなくなります。
使える制度
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(旧・ものづくり補助金)— 2026年度に統合・改称されました。設備投資やシステム構築が対象です
- 小規模事業者持続化補助金 — ネットショップ構築やパッケージ刷新など、販路開拓に使えます
- デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)— 受注管理・生産管理システムの導入に
いずれも申請には審査があり、採択を保証するものではありません。
また補助金は精算払い(後払い)で、交付決定前に発注すると対象外になります。
制度内容は年度により変更されるため、最新の公募要領を必ずご確認ください。
(大分の補助金・支援策まとめはこちら)
まとめ:腕の要らない時間を削り、腕の要る仕事に回す
この記事のポイントをまとめます。
- 削るべきは作業時間ではなく、探す・待つ・確認する・清書する時間です。まず1週間、手が止まった理由をスマホにメモしてください。同じ理由が繰り返し出てきます。
- 受注の入口を1本にまとめ、記録はその場で一度だけ。音声入力と写真を使えば、費用をかけずに清書の時間をゼロにできます。
- 記録できることと、人にしかできない判断を分ける。前者を残せば、後者の質が上がり、後継者が育つ速度も変わります。
臼杵の産業の強みは、手間を惜しまない仕事そのものです。
その手間を守るために、手間でしかない時間を削る——それが現場に合った生産性向上の形だと考えています。
「うちの工程だとどこから手をつけるべきか」を一緒に見るご相談を、初回無料でお受けしています。
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