「デジタル化すると、うちの良さがなくなってしまう気がして」
別府で長く商売をされている方から、こうしたお話をよく伺います。
手書きのメニュー、女将さんの一言、常連さんとの何気ない会話。
これらは別府の観光を支えてきた本物の価値です。
効率化の名のもとにこれを削るのは、私も反対です。
ですが、少し立ち止まって考えてみてください。
その大切な時間を圧迫しているのは、何でしょうか。
多くの場合、予約サイトごとの手入力、電話の取り次ぎ、外国語での道案内、翌朝の売上集計——お客様と向き合うことではない作業です。
この記事では、別府の飲食店・観光業が、アナログの良さを一切手放さずに、裏側の手間だけを減らす方法をお伝えします。
別府ならではの3つの事情とデジタル化の線引き

事情1:インバウンド比率の高さ
別府は、国内でも有数の外国人観光客比率を持つ地域です。
「英語が話せないから」と機会を逃している飲食店は少なくありません。
しかし現在は、翻訳の道具が劇的に安く、正確になりました。
語学を習得しなくても、対応の幅は広げられます。
事情2:繁閑の落差が大きい
大型連休や紅葉の時期と平日の差が激しく、繁忙期は人手が足りず、閑散期は手が余る。
この波にどう対応するかが、別府の事業者に共通する課題です。
繁忙期に人を増やすのが難しいなら、繁忙期の作業そのものを減らすしかありません。
デジタル化が効くのは、まさにここです。
事情3:宿と飲食店の距離が近い
別府の飲食店にとって、宿からの紹介は今なお大きな流入経路です。
この関係をデジタルで補強できることは、あまり知られていません。
デジタルにすべきこと、してはいけないこと
打ち手に入る前に、線引きを整理しておきます。
すべてをデジタル化する必要はありません。
| デジタルにすると得をすること | 人が担い続けるべきこと |
|---|---|
| 予約の受付・管理 | お出迎え、見送り |
| 多言語のメニュー・案内 | 料理の説明、おすすめの一言 |
| 売上・在庫の集計 | 常連さんとの会話 |
| 口コミへの気づき(通知) | 口コミへの返信内容を考えること |
| 道順・観光情報の案内 | 「今日はどこへ行かれます?」の一言 |
判断の基準はシンプルです。「お客様が人からしてもらって嬉しいこと」は残す。
「お客様が待たされるだけの作業」はデジタルに任せる。
手書きのお品書きは残していい。
けれど、そのお品書きの英語版をスマホで見られるようにする——これが別府に合ったやり方です。
打ち手1:予約の入口を整理する(宿泊・飲食共通)

二重入力をなくすことが最優先
複数の予約サイトを使っている宿の場合、各サイトの空室を手作業で更新しているケースが今も多く見られます。
これは繁忙期に最も事故が起きやすい作業です。
対策は、サイトコントローラー(各予約サイトの在庫をまとめて管理する仕組み)の導入です。
1か所直せば全サイトに反映されるため、ダブルブッキングの不安から解放されます。
小規模な宿向けのものであれば、月額数千円から利用できるサービスもあります。
(予約システム導入のメリットはこちら)
飲食店は「電話に出られない時間」を埋める
営業中は電話に出られない。かけ直す頃には、お客様は別の店を予約している——飲食店で最も多い機会損失です。
ネット予約の受付窓口を1つ用意するだけで、この取りこぼしは大きく減ります。
24時間、こちらが手を止めずに予約が入ります。
大切なのは、電話をやめないこと。
常連さんや年配のお客様には電話が一番です。
電話は残したまま、入口を1つ増やすという考え方でいきましょう。
打ち手2:多言語対応は「翻訳」ではなく「見せ方」で解決する
生成AIでメニューの多言語版を作る
ChatGPTなどの生成AI(文章を作ってくれるAI)を使えば、日本語のメニューを英語・中国語・韓国語に訳すのは数分です。費用は無料の範囲でも十分に足ります。
ただし、そのまま使わないでください。
料理名の直訳は誤解を招きます。
- 「とり天」→ 直訳ではなく “Toriten – Oita-style tempura-fried chicken” のように、読み方+説明を添える
- 「だんご汁」→ 材料とアレルギー情報を併記する
郷土料理こそ説明が必要です。
ここは手を抜かず、AIが作った文章を一度読み返してください。
(AIの活用法はこちら)
QRコードで「紙のメニュー」を活かす
紙のメニューを廃止する必要はありません。
紙のメニューの隅に、多言語版へのQRコードを1つ印刷するだけで足ります。
日本のお客様は今まで通り紙を見る。
外国のお客様はスマホで自国語版を見る。
手書きの温かみは残したまま、対応の幅だけが広がります。
アレルギー・宗教上の制限に備える
インバウンドで最も深刻なトラブルは、食材の伝達ミスです。
豚肉、アルコール、牛肉、乳製品——多言語メニューには、主要な食材のアイコン表示を必ず入れてください。
これは売上以前に、安全の問題です。
打ち手3:Googleマップと口コミを味方につける

別府を訪れる観光客の多くは、Googleマップで「別府 ランチ」と検索して店を決めます。
ホームページより先に見られているのが、この画面です。
まず整えるべき3点
- 営業時間を正確に(臨時休業も必ず反映する)
- 写真を10枚以上(料理・外観・店内・席の様子)
- 口コミへの返信
3つ目が特に重要です。返信のある店は「生きている店」に見えます。
外国語の口コミには、翻訳ツールを使って外国語で返して構いません。
多少不自然でも、返そうとした姿勢は伝わります。
MEO対策(Googleマップでの表示を良くする取り組み)は、観光地の飲食店にとって最も費用対効果の高い集客手段です。
(MEO対策の始め方はこちら)
悪い口コミへの向き合い方
観光地では、一見のお客様からの厳しい口コミが避けられません。
ここで重要なのは、その口コミを見ているのは投稿者ではなく、これから来る人だということです。
感情的に反論せず、事実だけを丁寧に返す。
この対応そのものが、次のお客様への説明になります。
打ち手4:宿と飲食店の連携をデジタルで補強する
別府ならではの打ち手です。
宿が飲食店を紹介する際、これまでは口頭と紙の地図でした。
これをLINE公式アカウントやQRコード付きの紹介カードにすると、次のことが可能になります。
- お客様が道に迷わない(地図アプリが起動する)
- 紹介した宿と店の双方に、どのくらい送客できたかが見える
- 店側から当日の空席状況を宿に伝えられる
「今日は満席です」を朝に共有できるだけで、宿もお客様も無駄足を避けられます。
関係は今まで通り人と人。伝わる速度だけが上がります。
(LINE公式アカウントの始め方はこちら)
デジタル活用の具体的な進め方は、無料セミナーでもご案内しています。
どこから始めるか:優先順位
繁忙期を控えている場合、一度にすべては無理です。
次の順番をおすすめします。
| 順番 | 取り組み | 費用の目安 | 効果が出るまで |
|---|---|---|---|
| 1 | Googleマップの情報整備・写真追加 | 0円 | 数週間 |
| 2 | 多言語メニュー(AI+QRコード) | 0〜5,000円(印刷代) | すぐ |
| 3 | ネット予約の窓口を1つ用意 | 月額0〜10,000円 | 1か月 |
| 4 | サイトコントローラー(宿の場合) | 月額数千円〜 | 2〜3か月 |
1と2は今週中に着手できます。 そして費用がほとんどかかりません。
なお、3・4のシステム導入には、国のデジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)や小規模事業者持続化補助金が使える場合があります。
補助金には審査があり採択を保証するものではなく、制度内容は年度により変わります。
最新の公募要領をご確認ください。
(大分の補助金・支援策まとめはこちら)
まとめ:別府の強みは「人」。デジタルは、その時間を守るために使う
この記事のポイントをまとめます。
- デジタル化すべきなのは、お客様が待たされるだけの作業です。お出迎え、料理の説明、常連さんとの会話——別府の価値そのものは、人が担い続けてください。
- 今週できることは2つ。Googleマップの情報整備と、AIで作る多言語メニューのQRコード化。どちらもほぼ費用ゼロで、紙のメニューも手書きも残したまま実施できます。
- 予約の入口を1つ増やす。電話をやめるのではなく、電話に出られない時間帯の取りこぼしを拾う。宿ならサイトコントローラーで二重入力をなくすことが最優先です。
別府が選ばれてきた理由は、効率の良さではありません。
その理由を守るために、裏側の手間を減らす——これが観光地に合ったデジタル活用の形です。
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