「市の奨励金、9月30日で終わったんですよね」
先日、飲食店の店主さんからそう言われました。
11月1日から大分県の最低賃金が1,096円に上がるため、パート5人の時給をすでに引き上げたところです。
終わっていません。前期の受付は11月30日まで延長されています。
大分市には、賃上げをした市内の中小企業に奨励金を出す制度があります。
正式名称は「大分市中小企業等賃金引上げ奨励金」、通称は賃上げ奨励金です。
従業員1人あたり1万5千円から5万円、上限は50万円です。
ただし、ひとつだけ先に決めておかなければならないことがあります。
この奨励金は、1年度に1回しか申請できません。
前期で出すか12月から始まる後期で出すか。
先に決める必要があります。
大分市の賃上げ奨励金とは

まず制度の骨格からお伝えします。
賃上げした従業員1人あたりで奨励金が出ます
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上限額 | 50万円(1事業者あたり) |
| 対象期間 | 2026年1月1日〜12月31日の賃上げ |
| 継続要件 | 引上げ後の賃金を3か月以上連続して支給済みであること |
| 前期 | 2026年8月3日〜11月30日(月) |
| 後期 | 2026年12月1日(火)〜2027年1月29日(金) |
| 申請回数 | 1年度に1回まで |
| 財源 | 国の重点支援地方交付金 |
対象になるのは、市内に本社・本店・事務所(個人事業主は事業所)を持つ中小企業者等です。
個人事業主も対象に含まれます。
みなし大企業(大企業から一定以上の出資を受けている会社など)は対象外です。
正規は「率」、非正規は「額」で判定します
ここが最も誤解されやすいところです。
単価は3区分あり、正規と非正規で判定の仕方が違います。
| 区分 | 要件 | 単価 |
|---|---|---|
| 正規雇用労働者 | 定期昇給分を除く賃上げ率 2.0%以上 | 5万円/人 |
| 非正規雇用労働者 | 時給換算で 20円以上40円未満 の引上げ | 1万5千円/人 |
| 非正規雇用労働者 | 時給換算で 40円以上 の引上げ | 3万円/人 |
正規は「何パーセント上げたか」、非正規は「何円上げたか」で見ます。
非正規の20円と40円は雇用形態の違いではなく、賃上げ幅による2段階です。
対象人数そのものに上限はありません。
単価を合計して50万円に達するまで受け取れます。
美容室で、正社員2名の基本給を2.5%上げ、パート3名の時給を30円上げたなら、5万円×2+1万5千円×3=14万5千円という計算になります。
なお、全従業員が要件を満たす必要はありません。
1人でも満たしていれば申請できます。
申請できるのは、年度に1回だけです
ここが記事でいちばんお伝えしたい部分です。
前期と後期は「どちらか一方」を選ぶ制度です
交付要綱には「一の年度に、一の交付対象者につき1回限りとする」と定められています。
市のページにも「申請は1年度に1回までです」と明記されています。
前期に申請すると、後期には申請できません。
逆もまた同じです。
前期と後期は「2回チャンスがある」のではなく、「どちらか都合のよいほうを選ぶ」という設計です。
どちらで出すかの判断軸
判断を分けるのは、3か月の支給実績がいつ揃うかと年内にまだ賃上げの予定があるかの2点です。
前期(11月30日まで)が向いているのは、こんな場合です。
- すでに賃上げから3か月以上の支給実績が揃っている
- 年内にこれ以上の賃上げを予定していない
- 対象になる従業員が確定している
後期(12月1日〜1月29日)を待ったほうがよいのは、こんな場合です。
- 11月の最低賃金改定に合わせて賃上げしたばかりで、3か月の実績がまだない
- 年末にかけて、さらに賃上げや増員を予定している
- 今の時点で申請すると、対象にできたはずの従業員が漏れてしまう
11月から時給を上げた飲食店であれば、3か月分の支給実績が揃うのは年明けです。
前期に急いでも要件を満たせません。
落ち着いて後期に出すのが正解になります。
一方、春に賃上げを済ませている事業者は、すでに実績が揃っています。
前期の残り期間で出せます。
先着順で、予算の範囲内です
交付要綱には「奨励金は、予算の範囲内で交付する」とあります。
先着順で、予算の上限に達した日をもって受付が終了します(同じ日の申請が予算を超えた場合は、その日の申請分のみ抽選)。
市のページには交付予定の残額が掲載されており、土日祝を除いて1日1回更新されています。
申請前に確認してください。
「後期まで待つ」と判断した場合は、予算が残っているかどうかも見ておく必要があります。
3か月の支給実績がないと申請できません
要件の中で、実務上いちばん引っかかりやすいのがこれです。
数えるのは「支給日」ではなく「労働月」です
引き上げた後の賃金を3か月以上連続して支給した実績が、申請の時点で必要です。
このとき数えるのは支給日ではなく、働いた月です。
翌月払いの会社で、1月に支給した分が前年12月の労働分であれば、その月はカウントされません。
12月の労働分から賃上げを始めた場合も、12月31日までに3か月分の実績が立たないため対象外になります。
後期の締切(2027年1月29日)から逆算すると、3か月分の実績を揃えるには秋のうちに賃上げを始めている必要があります。
余裕はあまりありません。
自社の支給サイクルで間に合うかどうかは、市のコールセンターで確認してください。
11月1日以降の賃上げは基準日が読み替わります
大分県の最低賃金は11月1日から1,096円に改定されました。
これに伴い、11月1日以降の賃上げについては、基準日を「1月1日」から「11月1日」に読み替えます。
11月1日以降の最低賃金改定分は賃上げとしてカウントされません。
最低賃金までの引上げは賃上げに算入されません
もうひとつ注意点があります。
引上げ前の賃金が支給時点の最低賃金以上であることが前提です。
最低賃金を下回っていた賃金を最低賃金まで引き上げた分は、賃上げとして算入されません。
そのほか、判定にあたって押さえておきたい点をまとめます。
- 対象になるのは正規は基本給、非正規は時間給等。賞与や役職手当などの各種手当は含みません
- 定期昇給は含めません。 ベースアップ分だけで計算します
- 固定残業代がある場合は、それを除いた基本給で判定します
- 時給が複数ある場合は、対象従業員の中で最も低い時給を比較対象にします
- 対象期間内に複数回に分けて引き上げ、合計で要件を満たす場合も対象になります(根拠書類が必要です)
月給制のパート従業員の扱いなど、判定が微妙なケースもあります。
自社がどちらの回で出せるかは、賃上げの時期と支給実績で変わります。
判断に迷う段階でご相談ください。
国・県の制度と重ねられるか

賃上げに関する支援は、国・県・市の3層になっています。
設備投資は国と県、賃上げそのものは市
| 階層 | 制度 | 何に対する支援か |
|---|---|---|
| 国 | 業務改善助成金 | 生産性を上げる設備投資の費用 |
| 県 | 大分県物価高騰対応業務改善奨励金 | 国の助成でまかなえなかった自己負担分への上乗せ |
| 市 | 大分市賃金引上げ奨励金 | 賃上げそのものに対する奨励金 |
国と県の制度は、設備投資とセットで賃上げをした場合に使えるものです。
詳しくは最低賃金が上がる前に。設備投資で助成を受ける順番で解説しています。
一方、大分市の奨励金は設備投資を伴わなくても、賃上げをしていれば対象になります。
性格が違う制度です。
併給については、必ず事務局に確認してください
気になるのは「3つとも使えるのか」でしょう。
調べた範囲では、大分市の交付要綱・ガイドライン・Q&A・チラシのいずれにも、国や県の制度との併給を制限する記載は見当たりませんでした(2026年10月時点)。
誓約書で制限されているのは「同一年度に大分市から奨励金その他賃上げを目的とする公的給付を受けていないこと」であり、国・県の制度は文言上含まれていません。
ただし、記載がないことは「併給できる」という意味ではありません。
実際に併給を前提に計画を立てる場合は、必ず市のコールセンター(097-594-5678)と大分労働局に確認してください。
申請の準備
最後に進め方をまとめます。
- 対象になる従業員を確認する ― 市内在住で、正規は雇用保険・厚生年金、非正規は週20時間以上勤務かつ雇用保険の被保険者。役員や個人事業主本人は対象外です
- 賃金台帳で3か月の支給実績を確認する ― 労働月で数えます
- 市税完納証明書を取る ― 申請日から1か月以内のものが必要です。ここで日数を使うので早めに
- 賃金引上げ算定表を作る(正規・非正規で様式が分かれています)
- 電子申請する ― 24時間受付です
このほか、法人は履歴事項全部証明書の写し(3か月以内)、個人事業主は令和7年分確定申告書第1表の写しなどが必要です。
紙の様式は修正液・修正テープが使えません。
窓口に持参する場合、前期の延長期間中(11月30日まで)は市役所第2庁舎1階の申請サポート窓口が開設されていません。
本庁舎9階の商工労政課に持参することになります。
申請サポート窓口が開くのは後期(12月1日〜1月29日)です。
郵送は最終日必着で、消印では受け付けられません。
不備がなければ、受付から振込までおよそ4週間です。
まとめ
- 前期の受付は11月30日まで延長されています。 「9月末で終わった」という情報は延長前のものです
- 申請は1年度に1回だけ。 前期と後期は併用できません。3か月の支給実績がいつ揃うかで、どちらに出すかを先に決めてください
- 正規は賃上げ率2.0%以上で5万円、非正規は賃上げ額20円以上で1万5千円・40円以上で3万円。 合計して上限50万円です
賃上げは決めたものの、どの制度をどう組み合わせればよいか分からない。
そういう段階でのご相談がいちばんお役に立てます。
初回相談は無料です。
大分で使える制度を目的別に整理したページもあります。
なお、賃金規程や就業規則の整備そのものは社会保険労務士の領域です。
当事務所は社会保険労務士ではありませんので、手続面はお近くの社会保険労務士にご相談ください。
制度の内容・金額・日程は年度によって変わります。
本記事は2026年10月時点の情報です。
申請にあたっては、必ず大分市の公式ページで最新の募集内容をご確認ください。