大分市内で40年続く和菓子店。
70代の店主は「息子に継がせるか、長く勤めてくれている職人に任せるか」を何年も決めきれずにいます。
専門家に相談したい気持ちはあっても、費用がどのくらいかかるのか分からず、つい先送りに——事業承継の相談では、こうした場面がとても多くあります。
結論からお伝えします。
大分市には、事業承継やM&Aのために専門家へ支払う費用の3分の2(最大50万円)を補助する制度があります。
令和8年度からは、事業を引き継ぐ側(買い手)の費用も対象になりました。
ただしこの制度は、専門家に依頼する前に申請しておかないと使えません。
この記事では、制度の中身と、使うための段取りを順に整理します。
大分市「事業承継等支援事業」の概要

経営力強化促進補助金の4つのメニューの1つ
大分市の「中小企業者経営力強化促進補助金」には、人材育成応援事業、BCP等策定等支援事業、知的財産取得促進事業、そして事業承継等支援事業の4つがあります。
補助金全体の概要は大分市中小企業者経営力強化促進補助金2026年完全ガイドで紹介しています。
補助率・上限・受付期間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 3分の2 |
| 上限額 | 50万円 |
| 申請期間 | 令和8年4月1日〜令和9年3月17日(予算に達し次第終了) |
| 申請期限 | 事業開始日(専門家への委託日など)の14日前まで(年末年始を除く) |
| 申請方法 | オンライン申請、窓口への持参、郵送 |
補助率とは、かかった費用のうち何割を補助してもらえるかのことです。
たとえば専門家への費用が60万円(税抜)なら、補助額は40万円です。75万円を超えると上限の50万円に達します。
令和8年度の変更点と対象になる承継のかたち
令和8年度の主な変更点
- 譲受者(買い手)の費用が新たに対象になりました
- 買い手として、中小企業者ではない個人も申請できるようになりました。ただし親族や従業員以外の第三者から引き継ぐ場合は、「大分県後継者人材バンク」への登録が必要です
- 1取引10万円(税抜)を超える支払いを現金で行うと、対象外になりました
対象になる承継のかたち
対象は、支援機関の支援を受けたうえで行う事業承継またはM&Aです。
- 事業承継:親族、役員、従業員などに事業を引き継ぐこと
- M&A:事業譲渡や株式譲渡によって第三者に事業を引き継ぐこと
M&Aとは、会社や事業を売買することです。
いずれの場合も、大分市内に事業所がある中小企業から、大分市内で3年以上事業を続ける見込みのある相手へ引き継ぐことが条件です。
売り手は、市内で1年以上事業を営んでいることも求められます。
補助の対象になる費用・ならない費用
売り手と買い手で対象が違う
| 費用の種類 | 売り手 | 買い手 |
|---|---|---|
| 初期診断、コンサルティング | ○ | ○ |
| 企業概要書・承継計画の作成 | ○ | ○ |
| 企業価値・譲渡価格(譲受価格)の算定 | ○ | ○ |
| 事業譲渡・株式譲渡などの契約書作成 | ○ | ○ |
| デューデリジェンス | — | ○ |
| 法人登記・不動産登記の申請資料作成 | — | ○ |
| M&Aの仲介手数料・マッチング登録料 | ○ | ○ |
| 上記の着手金 | ○ | ○ |
デューデリジェンスとは、買い手が引き継ぐ事業の財務や契約に問題がないかを事前に調べることです。
登記の申請資料を司法書士などに頼む費用も対象になります。
なお、売り手が申請する場合は買い手が負担する費用を、買い手が申請する場合は売り手が負担する費用を、それぞれ申請できません。
対象にならない費用
- 顧問料
- 訴訟やトラブルへの対応にかかる費用
- M&Aが成立したときに支払う成功報酬
- 消費税、源泉徴収税
特に見落としやすいのが成功報酬です。
M&A仲介の費用は、着手金や仲介手数料と成功報酬に分かれていることが多いため、見積書の段階で内訳を分けてもらうと申請がスムーズです。
自社の関連会社や、役員の3親等以内の親族が経営する会社への依頼も、原則として対象外です。
必須条件「支援機関の支援」と申請の流れ

まず支援機関に相談する
この制度を使うには、次のいずれかの支援機関の支援を受けることが必要です。
- 大分県事業承継・引継ぎ支援センター
- 大分商工会議所
- 野津原町商工会
申請書類には、支援機関の支援を受けたことを示す確認書も含まれます。
大分市も、申請前の事前相談を勧めています。
申請から受け取りまでの流れ
- 支援機関と大分市の創業経営支援課に相談する
- 専門家から見積もりを取り、委託日の14日前までに交付申請する
- 市の審査を経て交付決定を受ける
- 交付決定の後に専門家と契約し、承継やM&Aを進める
- 経営権の移転が完了したら実績報告をして、補助金を請求する
交付決定とは「この事業に補助金を出します」という正式な通知です。
補助金は精算払いなので、専門家への費用はいったん全額を自社で支払います。
よくあるつまずき
- 専門家と契約してから申請した:交付決定の前に発生した費用は対象外です。「相談したら、その場で契約を勧められた」というケースは特に注意が必要です
- 支援機関を通さずに進めてしまった:支援機関の支援は必須の条件です
- 10万円を超える費用を現金で払った:振込やカードでの支払いが必要です
- 依頼先の業務実態を示せない:申請時に、依頼先が事業承継やM&Aの業務を行っていることが分かるホームページの画面などを提出します
- 市税の滞納がある:申請の前に、完納証明書が取れる状態か確認しておきましょう
事業完了と、その後の報告
実績報告は、経営権の移転完了日と費用の支払日のうち遅いほうから30日以内、または令和9年3月31日のいずれか早い日までに行います。
株式譲渡なら、最終契約書や変更前後の株主名簿などで移転の完了を示します。
3親等以内の親族への承継で、経営権の移転が翌年度以降になる場合は、そのことが分かる事業承継計画書を出せば認められます。
また、補助を受けた買い手は、交付を受けた年度から3年度の間、取組状況の報告が必要です。
市内に拠点があることを確認できない場合、補助金の返還を求められることがあります。
国の「事業承継・M&A補助金」との使い分け
国にも「事業承継・M&A補助金」があります。
2026年9月時点では16次公募が公表されており、申請の受付は10月2日から11月6日までと案内されています。
| 比べる点 | 大分市の制度 | 国の制度 |
|---|---|---|
| 受付 | 通年(予算に達するまで) | 公募回ごとに期間が区切られる |
| 上限額 | 50万円 | 専門家活用枠で数百万円規模(類型により異なる) |
| 入口 | 支援機関の支援が必須 | 公募要領に沿って申請 |
| 向いているケース | 専門家費用が数十万円程度の承継 | 規模の大きなM&Aなど |
大分市内の小規模な承継では、いつでも申請でき、手続きも比較的身近な市の制度が現実的な選択肢になることが多いと感じています。
一方で費用が大きくなるM&Aでは、国の制度のほうが上限の面で合う場合があります。
同じ費用に両方の補助金を充てることは、通常できません。
併用を考える場合は、必ず両方の窓口に事前に確認してください。
国の制度の内容や日程は、事務局の公募要領で最新情報をご確認ください。
まとめ
- 大分市の事業承継等支援事業は、事業承継やM&Aの専門家費用を2/3・最大50万円補助。令和8年度から買い手の費用も対象です
- 使うには支援機関の支援が必須で、専門家への委託日の14日前までに申請が必要です
- M&Aの成功報酬や顧問料は対象外。見積もりの段階で内訳を確認しておきましょう
事業承継は、補助金を使うかどうかより先に「誰に、いつ、どう引き継ぐか」を整理することが大切です。
当事務所では、承継の現状整理から計画づくり、補助金を含めた資金面の検討、申請書類の作成までお手伝いしています。
税務や登記の専門的な手続きが必要な場合は、税理士・司法書士などと連携して進めます。
「まだ何も決まっていない」段階でのご相談も歓迎しています。
※本記事は2026年9月時点の大分市の募集要領にもとづいています。
補助率・上限・要件は年度により変わることがあります。
申請前に必ず大分市の公式ページで最新情報をご確認ください。