大分県の最低賃金が、2026年11月1日から時間額1,096円になります。
現行の1,035円から61円、率にして5.89%の引き上げです。
パート3人を時給1,040円で雇っている美容室のオーナーなら、全員を1,096円まで上げることになります。
「上げなければいけないのは分かっている。けれど原資が見えない」。
そう感じている方は多いはずです。
このとき使えるのが業務改善助成金です。
生産性を上げる設備投資を行い、あわせて事業場内の最低賃金を引き上げると、設備投資の費用を国が最大4/5まで助成します。
さらに大分県にはその自己負担分にもう一度上乗せする奨励金があります。
ただしこの制度は、手続きの順番を間違えると対象外になります。
先に日程の話をします
大分県の申請期限は2026年10月31日です
交付申請の締切は全国共通で、申請する事業場がある都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日、または2026年11月30日のいずれか早い日です。
大分県の発効日は11月1日ですから、大分の事業者の締切は2026年10月31日になります。
| 項目 | 期限 |
|---|---|
| 交付申請の受付開始 | 2026年9月1日 |
| 大分県の交付申請の締切 | 2026年10月31日 |
| 賃金引上げを実施する期限 | 同じく2026年10月31日 |
| 事業完了(納品・支払)の期限 | 交付決定の属する年度の1月31日 |
大分労働局は「本助成金は予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合があります」とも明記しています。
後述のとおり賃金の引き上げも同じ10月31日までに済ませる必要があるため、今年の申請に間に合うのは、すでに準備を進めている方に限られるとお考えください。
それでも今、知っておく意味があります
大分県の奨励金は年明けまで申請できます。
今年すでに国の助成を受けた方は、国の交付額が確定した後、2027年3月15日まで県に申請できます。
「国の助成は受けたが、県の上乗せを知らなかった」という方は、まだ間に合います。
そして最低賃金は毎年上がります。
大分県は過去3年で55円、81円、61円と上がり続けており、来年も同じ判断を迫られます。
この制度で本当に難しいのは手続きではなく「どの設備に投資するか」の判断で、ここは締切と関係なく今から考えられます。
業務改善助成金のしくみ

3つのコースと上限額
引き上げる金額に応じて3つのコースがあります。
2026年度から50円・70円・90円の3コースに再編されました(前年度まであった30円コースは廃止されています)。
助成の上限額は、コースと「引き上げる労働者の人数」の組み合わせで決まります。
| 引き上げる労働者数 | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|
| 1人 | 40万円 | 50万円 | 100万円 |
| 2〜3人 | 70万円 | 100万円 | 240万円 |
| 4〜5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6〜7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
上の表は事業場の規模が30人未満の事業者に適用される金額です。
交付要領に「事業場規模30人未満の事業者に対しては、( )内上限額が適用される」とあり、小さい事業場のほうが上限が高く設定されています(30人以上では一部の区分で金額が下がります)。
実際に支給される額は、設備投資にかかった費用に助成率をかけた金額と、上の上限額を比べて、低いほうになります。
助成率は「引き上げる前の時給」で決まります
| 引き上げる前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,050円未満 | 4/5 |
| 1,050円以上 | 3/4 |
「事業場内最低賃金」とは、その事業場で最も低い時給のことです。
大分の現行の最低賃金が1,035円ですから、最低賃金に近い時給で雇っていればほとんどが4/5の区分に入ります。
2026年度から対象が広がりました
前年度まで「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内」の事業場しか使えませんでしたが、2026年度はこの制限が撤廃され、事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金を下回っていれば対象になります(ちょうど同額の場合は対象外です)。
対象になる労働者は、雇用保険の被保険者で雇い入れから6か月を経過した方です。
助成対象経費の下限は10万円、見積りは2者以上から取る必要があります。
同一年度内に同じ事業場から申請できるのは1回までです。
大分にはさらに県の上乗せがあります
ここが大分の事業者にとって一番大きい話です。
令和8年度大分県物価高騰対応業務改善奨励金という制度があります。
国の業務改善助成金を受給した事業者に対して、県が上乗せで支給するものです。
国の助成を受けた後の自己負担分に、県が最大9/10
支給額は「国の助成対象経費の支出額 − 国の助成額」に補助率をかけた金額と、上限額を比べて低いほうです。
つまり国の助成でまかないきれなかった自己負担分が対象になります。
| 区分(2026年4月1日以降に国へ申請) | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 2/3 | 140万円 |
| 重点枠 | 9/10 | 180万円 |
国が4/5、残りの自己負担分に県が最大9/10となれば、自己負担はかなり小さくなります。
国の制度だけを見て「2割は自分で出す」と判断すると、この上乗せを取り逃がします。
重点枠に該当するのは、事業場内最低賃金を「令和8年度大分県最低賃金改定幅を超えて」引き上げた場合、というのが県の条件です。
2026年度の改定幅は61円でしたので、文面どおりなら62円以上、国のコースでいえば70円コース以上が該当しそうです。
ただしこれは条件文からの読み取りで、県が明示している数字ではありません。
重点枠を狙う場合は必ず事前に県へご確認ください(大分県商工観光労働部 雇用労働室 097-506-3351〜3354)。
なお国の助成金の申請を社会保険労務士などに依頼した場合、その報酬も10/10・上限10万円で対象になります。
順番を間違えると対象外になります

ここが最も実害の出る論点です。
賃金の引き上げと設備投資とで、起点になる日が違います。
賃金引上げは「交付申請後」
交付要領には「事業場内最低賃金引上げ(就業規則等の改正及び適用)は、交付申請後に、実際に引き上げた事業場内最低賃金を規定しなければならない」とあります。
賃金の引き上げは、就業規則などの改正と適用がなされた時点で「実施された」と扱われます。
この日付が交付申請日より前だと、申請前に引き上げたことになり、対象外になります。
よくある誤解は「交付決定の前に上げてはいけない」というものですが、正しくは交付申請より前に上げてはいけないで、申請した後であれば交付決定を待たずに引き上げます。
なお引き上げを複数回に分けることはできません。
所定労働時間の短縮や所定労働日の減少を伴う形での引き上げも認められません。
設備の契約・納品は「交付決定後」
一方、設備投資は起点が違います。交付要領は「交付決定後から当該交付決定の属する年度の1月31日までに行う必要がある」とし、Q&Aはさらに「導入機器等の納品や契約は、必ず交付決定後でなければならず、交付決定前に納品や契約された場合は助成を受けることはできません」と明記しています。
見積りを取るところまでは申請前で構いませんが、発注してしまうと対象外です。
正しい順序
- 交付申請書を大分労働局へ提出する
- 賃金を引き上げる(就業規則等の改正と適用)← 申請後から、最低賃金の改定日の前日まで
- 交付決定の通知を受ける
- 設備を契約・納品・支払する ← 交付決定後から年度の1月31日まで
- 事業実績報告書と支給申請書を提出する
- 交付額の確定・支払
- 賃金引上げから6か月後に状況報告書を提出する
大分では申請も賃上げも10月31日までという日程になるため、申請してから数日のうちに就業規則を改正して適用する動き方になります。この進め方で問題がないかは必ず大分労働局にご確認ください(雇用環境・均等室 097-532-4025)。
どの設備に投資すれば対象になるのか
ここからが、この記事で一番お伝えしたい部分です。
公式に例示されているもの
厚生労働省の案内や申請マニュアルには、対象となる取り組みの例が挙げられています。
| 設備・費目 | 公式の表現 |
|---|---|
| POSレジ | POSレジシステム導入による在庫管理の短縮 |
| 顧客管理システム | 顧客管理情報のシステム化 |
| リフト付き特殊車両 | リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮 |
| 経営コンサルティング | 国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し |
食料品店でレジ締めに毎日40分かかっているなら、POSレジは公式に例示がある分、説明しやすい投資です。
ホームページは条件付きです。
Q&Aでは「受注(顧客からの発注をホームページ上で受ける)機能を付加する作成・改修等については助成対象」とされています。
単なる会社案内やランディングページは対象外で、受注機能の有無が分かれ目です。
2026年度から対象外になったもの
ここは前年度から変わった部分なので、古い情報にご注意ください。
- 単なる経費削減が目的のもの(LED交換、通信プランの変更など)
- 職場環境の快適化(レイアウト変更、エアコン設置、内装工事)
- 通常の事業活動に伴う経費(家賃、光熱費、消耗品、通信費、清掃用品)
- 広告宣伝費・販売促進費(パンフレット、動画、展示会、ランディングページ)
- 建築物の構築、再生エネルギー設備(太陽光パネルなど)
- 交付決定前に発生した費用
快適さや見栄えを良くするものは通りません。
労働時間が減るか、同じ時間でできる量が増えるかで選ぶ必要があります。
判断が分かれるもの
飲食店の食洗機、券売機、予約システムについては、交付要領の別紙3・申請マニュアル・Q&Aのいずれにも明記がありません。
判断基準はQ&Aにある「生産性の向上、労働能率の増進に資する」と認められるかどうかで、個別判断です。
食洗機なら「洗い物に1日何分かかっていて、導入後は何分になるのか」を具体的に説明できるかが鍵になります。
対象になると決めつけずに、事前に労働局へ相談してください。
パソコンやタブレットは原則として対象外ですが、POSシステムなど特定の業務専用に導入することが明らかな場合は対象になることがあります。
「生産性が上がる」とはどういうことか
助成金の対象になるかという話と、その投資が自社にとって正しいかは別の問題です。
対象になるからという理由で設備を選ぶと、使わない機械が残ります。
考える順序は、設備からではありません。
- いま、どの作業に何分かかっているかを測る。レジ締め、仕込み、予約の電話対応、在庫の確認。感覚ではなく実際の時間を1週間記録する
- その作業が減ったら、空いた時間で何をするかを決める。接客を増やすのか、営業時間を延ばすのか、残業を減らすのか。ここが決まっていないと、時間が空いただけで売上も利益も変わりません
- そのうえで、最も時間を食っている作業に効く設備を選ぶ
美容室なら、顧客管理と予約を紙で回している店は1人あたりの施術数を増やす余地があります。
予約の電話対応に1日1時間使っているなら、そこが投資先の候補です。
逆に、すでに予約が埋まっている店に予約システムを入れても売上は増えません。
その設備で本当に生産性が上がるのかは、現場を見ないと判断できません。
設計の段階からご相談いただけます。
手続きは誰に頼むのか
最後に、正直にお伝えしておきます。
この助成金の申請を代行できるのは、社会保険労務士と弁護士だけです。
当事務所は社会保険労務士ではありませんので、就業規則の改正や賃金規程の整備といった手続きはお引き受けできません。
これらは社会保険労務士にご相談ください。
当事務所から社会保険労務士をご紹介することも可能です。
一方、交付要領の別紙3は助成の対象経費として「経営コンサルティング経費」を定めており、その実施者として中小企業診断士を挙げています。
つまりこの制度では役割が分かれています。
- 社会保険労務士 ― 申請の代行、就業規則の改正、賃金規程の整備
- 中小企業診断士 ― どの作業に時間がかかっているかの把握、投資先の選定、生産性向上の設計
当事務所がお手伝いできるのは後者です。
「どの設備を入れるか」で迷っている段階が、最もお役に立てるタイミングだと考えています。
まとめ
- 大分県の最低賃金は11月1日から1,096円(+61円)。国の申請期限は発効日の前日、つまり2026年10月31日です。予算の範囲内のため期限前に終了する場合もあります
- 大分県には上乗せの奨励金があります。 国の助成でまかなえなかった自己負担分に最大9/10・上限180万円。国の交付額が確定した後、2027年3月15日まで申請できます
- 順序を間違えると対象外です。 賃金引上げは交付申請の後、設備の契約・納品は交付決定の後。見積りまでは先に進められますが、発注は交付決定を待ってください
最低賃金は毎年上がります。
今年間に合わなくても、「どの作業に何分かかっているか」を測り始めることは今日からできます。
それが来年の申請の土台になります。
どの設備に投資すれば生産性が上がるのか、初回のご相談は無料です。
なお本記事は2026年10月時点の令和8年度の制度にもとづいています。
最低賃金は毎年改定され、助成金の要件も年度ごとに見直されます。
申請にあたっては必ず厚生労働省・大分労働局・大分県の最新情報をご確認ください。