「社員にAIを使えるようになってほしい」と思って3社から見積もりを取ったら、1社は16万円、1社は44万円、1社は月22万円でした。
何が違うのか分からず、そのまま止まっている。そんなご相談を受けることがあります。
値段の差は、手抜きと丁寧さの差ではありません。
「型」の差です。全社員のリテラシーを底上げしたいのか、推進できる人をひとり育てたいのか。
目的が違えば選ぶ型が変わり、予算の桁も変わります。
そしてもうひとつ。大分には、1人2,200円から受けられる公的な訓練があります。
まずそこを知ったうえで、それでも足りない部分を外注する。
その順番で考えると、無駄な出費を避けられます。
見積もりを取る前に決めること

全社の底上げか、推進できる人を育てるか
最初の分岐はここです。混同したまま見積もりを取ると、各社の提案が噛み合わず比較できません。
- 全社の底上げ ― 全員が「AIとは何か」「どこまで任せてよいか」を分かっている状態にしたい
- 推進人材の育成 ― 自社の業務を実際に作り変えられる人を育てたい
前者であれば、短時間のセミナーで足ります。
後者は、自社の業務を題材にした長時間の伴走が必要です。
同じ「AI研修」という言葉でも、必要な時間が1桁違います。
デジタルスキル標準という公的なものさし
この区別には、国が作った公的な基準があります。
経済産業省とIPA(情報処理推進機構)のデジタルスキル標準(DSS)です。
| 区分 | 対象 | ねらい |
|---|---|---|
| DXリテラシー標準(DSS-L) | すべてのビジネスパーソン | DXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようになること |
| DX推進スキル標準(DSS-P) | DXを推進する人材 | 6つの人材類型ごとに役割とスキルを定義 |
DSS-L は Why/What/How/マインド・スタンスの4つで構成されます。
DSS-P の人材類型は、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの6つです。
小さな会社で「全員に受けさせたい」という場合、必要なのはほぼ DSS-L 相当です。
これなら後述する無料のセミナーでも足ります。
DSS-P 相当の人材を育てるとなると話は別で、伴走型・長時間の研修が必要になります。
経産省・IPAが運営する講座検索サイト「マナビDX」は、掲載する講座をDSSへの対応審査に合格したものに限定しています。
無料の講座もあります。自社の目的がどちらなのかを決めてから、この基準で探すと迷いません。
研修には4つの型があります
目的が決まったら、型を選びます。
冒頭の見積もりの差は、ここに由来します。
| 型 | 向いている場面 | 公開されている価格帯の例 |
|---|---|---|
| 公開講座に参加する | まず自分が知りたい。1〜2名だけ | 公的訓練なら1人2,200円〜。民間の公開セミナーは1人2〜5万円 |
| 講師を自社に呼ぶ(出張型) | 全社員にまとめて受けさせたい | 3時間で16.5万円〜(10名まで)という県内事例あり |
| オンライン・eラーニング型 | 各自のペースで学ばせたい | 1IDあたり年3万8千円程度〜。ただし最低契約ID数に注意 |
| 伴走型・顧問型 | 自社の業務を実際に作り変えたい | 月22万円〜(週1回90分・6か月)という例 |
少人数のハンズオン講座で2日間・44万円という例もあります。
冒頭の「16万円と44万円」は、3時間の出張研修と2日間のハンズオンという別の型の見積もりだったわけです。
※民間の全国相場として出回っている数字は、研修会社が自社で集計したものが大半です。
統計ではない点にご注意ください。
eラーニングは最低契約ID数に注意してください。
1IDあたりの単価が安く見えても、5ID・10ID・20IDからという下限があり、初期費用が11万円かかるサービスもあります。
従業員10名以下の事業者では、かえって割高になることがあります。
大分には、無料・低額で受けられる選択肢があります

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
1人2,200円から受けられる公的訓練
ポリテクセンター大分(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の生産性向上支援訓練に、AI関連のコースがあります。
令和8年度のオープンコースには「AI(人工知能)活用」「生成AIの活用」「IT新技術による業務改善」などが設定されています。
| 訓練時間 | 受講料(IT活用系) |
|---|---|
| 4〜11時間 | 1人 2,200円 |
| 12〜17時間 | 1人 3,300円 |
| 18〜30時間 | 1人 4,400円 |
複数の企業が合同で受けるオープンコースのほか、1社単位で自社の会議室でも実施できるオーダーコース、2か月間視聴できるサブスクリプション型の動画もあります。
宇佐・中津会場で開催される回もあります。
ただし制約があります。
- 在職者向けです。 事業主からの受講指示が必要で、個人で申し込むことはできません
- 定員があり、開催時期が決まっています
なお、ハローワークの職業訓練(ハロートレーニング)は基本的に離職者向けです。
「従業員にAI研修を受けさせたい」というニーズに合うのは、こちらの生産性向上支援訓練のほうです。
混同しやすいので注意してください。
無料のセミナー・伴走支援
費用をかけずに受けられるものも複数あります。
| 提供元 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 大分県産業科学技術センター | リスキリング研修(生成AIを活用したデータ分析 等) | 無料 |
| 大分商工会議所 | 経営セミナー(体験型 生成AI活用セミナー 等) | 無料 |
| 大分県 DX理解促進セミナー | 年6回・県内6地域で開催 | 無料 |
| 大分県 DXコーディネーター | 訪問型の助言。最大4回×60分程度 | 無料 |
| 中小企業大学校 WEBee Campus | オンデマンド講座 動画200本 | 無料 |
大分商工会議所のセミナーはすべて会場開催でオンライン配信がなく、定員20〜50名の先着順です。
産業科学技術センターの研修も定員35名程度。
枠が小さいので、日程が出たら早めに動く必要があります。
このほか、年会費2万円で参加できる大分県のAI活用プラットフォーム「DAIB」や、おおいたAIテクノロジーセンターの研修会もあります。
公的な選択肢を使うときの注意
無料・低額には理由があります。
- 日程を選べません。 自社の繁忙期と重なれば参加できません
- 内容は一般的なものです。自社の業務に合わせた設計は含まれません
- 定員が小さく、先着順です
つまり「全社の底上げ(DSS-L相当)」なら公的な選択肢で十分足りますが、「自社の業務をどう変えるか」まで踏み込むなら外注が必要になります。
まず無料のセミナーに1人送ってみて、足りない部分を見極めてから外注を検討する。
この順番が無駄になりません。
自社に合う形が判断しづらい場合は、初回相談は無料です。
補助金を使うなら、研修の選び方が変わります
外注を決めたら、補助金の要件を先に見てください。
要件がそのまま研修の選定基準になります。
大分市の補助金は研修費用の一部を補助します
大分市中小企業者経営力強化促進補助金(人材育成応援事業)は、研修費用の2分の1を補助します。
DX研修については3分の2という記載があります。
- 上限は研修対象者1人あたり10万円、1事業者あたり30万円
- 30万円に達するまで、年度内に複数回申請できます
従業員12名の会社で1人3万円の研修を全員に受けさせると36万円ですが、1事業者あたりの上限は30万円です。
全員一斉ではなく段階的に組むほうが、制度とかみ合います。
なお「DX研修は3分の2」の記載が募集要領では自主研修の欄に置かれており、外部研修の場合も3分の2になるかは、申請前に大分市へご確認ください。
外部研修は「休憩を除いて6時間以上」が必須です
ここが選定基準に直結します。
大分市の補助金では外部研修について次の条件があります。
- 休憩時間を除いて6時間以上であること。「8時〜17時(適宜休憩)」という記載だけでは認められません
- 受講証明書・修了証を発行できる研修であること
つまり、3時間のセミナーは対象になりません。 修了証が出ない研修も対象外です。補助金を使う前提なら、見積もりを取る段階で「時間割が出るか」「修了証が出るか」を必ず確認してください。
国の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)を使う場合は、訓練時間が10時間以上必要です。
中小企業の経費助成率は75%です。
市の「6時間以上」とは別基準なので、両方を狙うなら10時間以上で設計することになります。
「売り込みが目的の研修」は対象外と明記されています
もうひとつ、覚えておくと役に立つ条件があります。
大分市の募集要領は、補助の対象外として「研修実施者の商品販売促進目的とみられるもの」を挙げています。
「無料セミナーに行ったら、最後の30分がツールの売り込みだった」という経験をお持ちの方もいると思います。
公的な制度も、それを研修とは認めていないということです。
講演会・視察・討論会・フォーラムなども対象外です。
研修を決めたあとに決めておくこと
効果測定の方法は、発注時に決めておく
調べた範囲では、AI・DX研修の効果測定について、公的な指針は存在しませんでした。
厚生労働省の能力開発基本調査も受講者本人の「役立ち度」という自己申告の満足度を調べているだけで、スキルが身についたかを測るものではありません。
公的に証拠として残せるのは、受講証明書・視聴時間ログ・時間割といった実施の証跡までです。
「できるようになったか」は自社で測るしかありません。
だからこそ、発注の段階で測り方を決めて仕様に書いておくことをおすすめします。
研修後に何がどうなっていれば成功なのかを、受講前に一文で書いておくだけでも変わります。
受けっぱなしにしない受け皿を作る
研修を受けた社員が職場に戻ったとき、使う場面がなければ元に戻ります。
「誰のどの業務から試すか」を研修前に決めておいてください。
これは外注先には決められません。
まとめ
- 見積もりの金額差は「型」の差です。 全社の底上げ(リテラシー)なのか推進人材の育成なのかを先に決めると、選ぶべき型と予算の桁が決まります
- 大分には1人2,200円から受けられる公的訓練と、無料のセミナーがあります。 まずここを使って、足りない部分を外注するのが無駄になりません
- 補助金を使うなら、外部研修は「休憩を除き6時間以上」「修了証が出ること」が条件です。3時間のセミナーでは対象になりません
自社の何を変えたいかが決まっていれば、研修選びはそれほど難しくありません。
そこが決まっていない段階でのご相談が、いちばんお役に立てます。
補助率3分の2の対象となるDX・生成AI研修も5コースご用意しています。
まずは雰囲気を知りたいという方へ。
スマホひとつで始める生成AI活用の無料セミナーを、毎月第4土曜に大分で開催しています。
研修のスケジュールも補助金の要件も、年度によって変わります。
本記事は2026年10月時点の情報です。
申込みの前に、必ず各機関の公式ページで最新の内容をご確認ください。