2026年7月21日、政府が「日本成長戦略」を決定しました。
2040年度までに累計370兆円超の官民投資を掲げる大きな戦略ですが、「国の話で自社には関係ない」と考えるのは早計です。
この戦略には中小企業に直接関わる施策が数多く盛り込まれており、価格転嫁、省力化投資への補助、賃上げと補助金の関係、事業承継支援などが具体的に示されています。
この記事では、中小企業の経営者に向けて「自社の経営に何が起きるのか」という視点から要点を整理します。
日本成長戦略とは?
日本成長戦略は、2026年7月21日に政府が決定した、日本経済の成長に向けた国の基本戦略です。
テーマは「強い経済」の構築による、強く豊かな日本列島の実現。
日本の潜在成長率が主要先進国と比べて低迷している原因について、技術革新力や労働の効率性は他国と遜色がなく「圧倒的に足りないのは国内投資である」と分析し、長年続いた過度な緊縮志向からの脱却を打ち出しています。
構成は3本柱です。
- 柱① 17の戦略分野への官民投資(リスクを最小化する「危機管理投資」と、先端技術を花開かせる「成長投資」の2軸。AIトランスフォーメーション=AXを加速装置とする)
- 柱② 8つの分野横断的な課題への対応(新技術立国/スタートアップ/金融/人材育成/労働市場改革/家事等の負担軽減/賃上げ環境整備/サイバーセキュリティ)
- 柱③ 未来への投資拡大(『「強く豊かな日本」投資枠』の創設)
なぜ中小企業に深く関係するのか
この戦略が中小企業にとって重要なのは、本文に次のような記述が明確に置かれているためです。
「中小企業は雇用の7割、付加価値の5割を占める日本経済の屋台骨であり、中小企業の成長こそ日本の成長である」
「政策スキームは、中小企業経営者の目線に立ったものとする」
「賃上げの責任を事業者に丸投げせず、中堅・中小企業の『稼ぐ力』の強化を強力に後押ししていく」
さらに中小企業は、17の戦略分野を支えるサプライチェーンの基盤的な存在としても位置づけられています。
以下、経営に直結する5つのポイントを順に見ていきます。
① 価格転嫁・取引適正化の徹底
2026年1月に施行された取適法・振興法を着実に執行するため、公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁の連携や取引Gメンの拡充による執行体制の強化が図られます。
公正取引委員会は地方組織を含めて体制を抜本的に強化するとされています。
特に注目したいのが官公需(国や自治体との取引)です。「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」に基づき、労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇に対応する体制整備と契約書への明記、予定価格への実勢価格の反映などの措置を、国等・地方公共団体において2027年度末までに100%実施するとしています。
- おおむね予定価格の60%未満の極めて低い入札率は原則的に失格とする運用へ見直し
- ビルメンテナンス業・警備業は総合評価落札方式の適用拡大等を推進。印刷業は費用の積算等に活用可能な基準を策定
- 地方公共団体の価格転嫁の取組状況を普通交付税の算定に反映。モニタリングの仕組みも構築
② 省力化・AX投資への支援(重点12業種)
「省力化投資促進プラン」が更に充実・拡充され、業種ごとのKPI達成状況をフォローアップして進捗を見える化します。
重点対象となるのは次の12業種です。
飲食業/宿泊業/小売業/理容業・美容業・クリーニング業・冠婚葬祭業/自動車整備業・ビルメンテナンス業・警備業/製造業/運輸業/建設業/医療/介護・福祉/保育/農林水産業
- 活用できる補助金:中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、業務改善助成金等
- 支援窓口:省力化ナビ(中小機構運営)、各都道府県の生産性向上支援センター(よろず支援拠点内)
- AI導入意欲のある中小企業とAIサービス提供者・支援者をつなぐ地域ネットワークを構築。デジタル化・省力化・賃上げの手法を指南する生成AIツールの開発も
- 生活衛生関係営業(飲食・宿泊・理美容・クリーニング等)は都道府県生活衛生営業指導センター等による伴走支援
③ 賃上げと補助金の新しい関係
経営実務に直接影響する重要な変更点です。中小企業の生産性向上に係る補助金について、足元の賃上げ状況も審査・評価する仕組みに見直すとされています。
つまり、賃上げへの取り組みが補助金の採択に影響する可能性があります。
- 積極的に賃上げを行う中小企業を重点支援するため、税制も含めた効果的な措置を検討
- 実質賃金:2029年度までの間で、日本経済全体で年1%程度の上昇を賃上げのノルム(社会通念)として定着させる
- 最低賃金:遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円を達成する方針。地域間格差の是正も図る
- 改正「同一労働同一賃金ガイドライン」が2026年10月から適用(家族手当・住宅手当等の考え方を明確化)
- 中小企業の労働生産性(稼ぐ力)を2030年度までの5年間で15%増加させる目標
④ 成長支援と資金調達の強化
これまで中心だった売上高100億円企業の創出メカニズムを強化するとともに、新たに売上高1〜10億円の企業と小規模事業者を対象とするメカニズムが構築されます。
支援の裾野が規模の小さな事業者にも広がる点が大きな変化です。
- 小規模事業者:商工会・商工会議所の経営指導員等によるプッシュ型の働き掛けと経営計画等の策定支援
- 信用保証:民間金融機関と信用保証協会の責任共有割合や保証限度額に係る新たな仕組みを設計
- 日本政策金融公庫等と民間金融機関の協調による成長資金の供給を推進
- 「地域未来金融アクションプラン(仮称)」を策定・運用し、地域金融機関の中小企業支援機能を強化
- 17の戦略分野については、イノベーション投資・新事業進出・新製品/サービス開発等を重点支援。輸出に挑戦する事業者への支援も強化
⑤ 事業承継・M&A支援の拡充
- 中小M&Aを支援する個人に対する資格制度を創設(支援者側の規律・質を担保する狙い)
- M&A支援機関登録制度の信頼性向上に向けた法制化を検討
- 事業承継を契機に「稼ぐ力」強化に取り組む中小企業に対し、事業承継税制も含めた措置を検討
- 事業承継・引継ぎ支援センターを中心に、地域金融機関等と連携した持続可能な支援体制を構築
- 後継者の経営能力を高める実践的な育成プログラムの開発、PMI(M&A後の統合作業)の普及啓発
- 2026年度中を目途に、再生M&Aの実務を円滑に進めるためのガイドラインを作成
17の戦略分野は「新たな取引のチャンス」
17の戦略分野(AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツ)は、一見すると大企業向けに見えます。
しかし、これらの分野には必ず部品加工・物流・保守などを担う中小企業が必要です。
戦略にも「17の戦略分野への投資やサプライチェーンへの参入」に取り組む中堅・中小企業を支援すると明記されており、新たな取引先を獲得する機会と捉えることができます。
経営者が今から備えるべき5つのこと
- 賃上げの計画を経営計画に組み込む(補助金の審査・評価に影響する可能性があるため)
- 価格転嫁の交渉材料を整える(労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇を示す根拠資料)
- 省力化・AI導入の検討を始める(重点12業種は特に補助メニューが手厚い)
- 17分野のサプライチェーン参入余地を探る(自社の技術が活かせる分野はないか)
- 事業承継は早めに着手する(支援体制・税制措置の拡充が進む今が相談のタイミング)
相談先としては、よろず支援拠点、商工会・商工会議所、事業承継・引継ぎ支援センター、地域金融機関などがあります。
まとめ:数字で見る日本成長戦略
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決定日 | 2026年7月21日 |
| 官民国内投資 | 2040年度までに累計370兆円超(17分野の62製品・技術等) |
| 国内投資目標 | 2040年度に250兆円(官民目標)/名目GDPは1,100兆円に迫る試算 |
| 中小企業の稼ぐ力 | 労働生産性を2030年度までの5年間で15%増加 |
| 実質賃金 | 2029年度までの間で年1%程度の上昇を定着 |
| 最低賃金 | 遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円 |
| 官公需の価格転嫁 | 特に取り組むべき措置を2027年度末までに100%実施 |
「動く企業」に支援が集まる時代へ
価格転嫁・省力化投資・賃上げ・事業承継。
自社に使える支援策は、よろず支援拠点や商工会議所にご相談ください。
▶ 動画版では図解つきでさらに詳しく解説しています
チャンネル登録・高評価もよろしくお願いします。
※本記事は公表資料(日本成長戦略・同概要)に基づき、制度の理解を助ける目的で作成しています。
施策の詳細や今後の制度設計は変更される可能性があります。
最新かつ正確な情報は、内閣官房のホームページで公開されている原文をご確認ください。
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