売掛金をファクタリングで先に現金化したものの資金繰りが戻らず、「この状態で自己破産を申し立てられるのだろうか」と不安を抱えている方は少なくありません。
結論から書くと、ファクタリングを利用していたことそれ自体が自己破産を妨げることはありません。ファクタリングは法的には債権の売買であり、借入れではないからです。ただし、破産手続のなかで「否認権」や「免責不許可事由」という論点に触れる場面はあります。どこが問題になり得るのかを、条文にさかのぼって整理しました。
あわせて、破産を決める前に使える公的な相談窓口と制度も並べています。ここは弁護士の解説記事ではあまり触れられない部分ですが、中小企業診断士として日々相談を受けるなかで、知られていないだけで使える制度がまだ残っているケースを何度も見てきました。
- ファクタリングは債権の売買であり、利用歴があること自体は自己破産の障害にならない
- 破産手続で問題になり得るのは、破産法160条〜162条の否認権と、252条1項の免責不許可事由
- 免責不許可事由に当たっても、252条2項の裁量免責で免責が認められる余地がある
- 「ファクタリング」を名乗る実質的な貸付けは、貸金業法・出資法に違反する可能性がある(金融庁が注意喚起)
- 破産を決める前に、中小企業活性化協議会・よろず支援拠点など無料で使える公的窓口が全国にある
結論|ファクタリング利用後でも自己破産はできる

まず全体像を先に示します。読者の状況によって、次に取るべき行動が変わります。
| 今の状況 | 次に検討したいこと |
|---|---|
| 売掛金はあるが入金までの資金が足りない | 公的な相談窓口・公庫の融資・ファクタリングを比較して選ぶ |
| ファクタリングを繰り返していて手数料負担が重い | 中小企業活性化協議会・よろず支援拠点へ無料相談 |
| 支払いが止まりそう/すでに止まっている | 弁護士へ相談。同時に否認・免責の論点を把握しておく |
| 「ファクタリング」なのに買戻しを求められている | 金融庁の注意喚起を確認し、弁護士・警察へ相談 |
ファクタリングを利用したことがある事業者が自己破産できるかという点については、法律上、利用歴を理由に破産手続の開始や免責が否定される仕組みはありません。破産手続開始の要件は破産法30条1項に定められており、そこにファクタリングの利用は登場しません。
問題になるとすれば、次の3点に絞られます。
① 否認権の対象になるか
破産管財人が、破産手続開始前におこなわれた取引を後から効力を失わせる制度です。破産法160条〜162条に規定されています。
② 免責不許可事由に当たるか
個人の自己破産のみの論点です。破産法252条1項各号に列挙されています。
③ そもそも「ファクタリング」だったのか
形式は債権譲渡でも、経済的な実態が貸付けだった場合、契約自体の有効性が争われることがあります。
以下、順に見ていきます。
ファクタリングは借入れではなく債権の売買|法的な位置づけを条文で確認
金融庁は、ファクタリングについて「一般に『ファクタリング』とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です」と説明しています。
つまり、ファクタリングで受け取ったお金は借入金ではありません。ここが自己破産を考えるうえでの出発点になります。
| 比較項目 | ファクタリング | 融資・借入れ |
|---|---|---|
| 法的性質 | 債権の売買(債権譲渡) | 金銭消費貸借 |
| 根拠となる法律 | 民法466条・467条 | 民法587条ほか、貸金業法 |
| 支払う対価 | 手数料(買取代金との差額) | 利息 |
| 破産手続での扱い | すでに終わった資産の売却 | 破産債権として届出の対象 |
債権譲渡を支える民法の条文
売掛債権の譲渡ができる根拠は民法466条1項です。同条2項は、契約に譲渡制限の特約があっても「債権の譲渡は、その効力を妨げられない」と定めています。2020年施行の改正で明確化された部分で、取引基本契約に譲渡禁止条項があっても譲渡自体は有効です。
ただし同条3項により、譲渡制限を知っていた(または重大な過失で知らなかった)譲受人に対しては、債務者が履行を拒むことができます。売掛先との契約に譲渡禁止特約がある場合、ファクタリング会社が回収に動けなくなる余地が残る、ということです。
また民法466条の6により、まだ発生していない将来債権も譲渡できます。将来債権を対象にしたファクタリングが成り立つのはこの条文があるためです。
誰に対して「自分のものだ」と主張できるか
民法467条は債権譲渡の対抗要件を定めています。
- 1項:譲渡人から債務者への通知、または債務者の承諾があれば、債務者に対して主張できる
- 2項:第三者に対して主張するには、確定日付のある証書による通知・承諾が必要
法人の場合はもうひとつ道があります。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項により、債権譲渡登記をすれば、債務者以外の第三者に対して確定日付のある証書による通知があったものとみなされます。この登記制度の概要は法務省が解説しています。
債権譲渡登記が使えるのは法人だけです。個人事業主のファクタリングで登記が出てこないのはこのためです。
2社間と3社間の違い|破産したときに何が変わるか

ファクタリングには、売掛先に知らせずに進める2社間と、売掛先の承諾を得る3社間があります。破産を視野に入れたとき、この違いは無視できません。
| 比較項目 | 2社間ファクタリング | 3社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 売掛先への通知 | しない | する(承諾を得る) |
| 売掛金の入金先 | 利用者が受け取り、送金する | ファクタリング会社が直接受け取る |
| 手数料の水準 | 3社間より高くなる傾向 | 2社間より低くなる傾向 |
2社間で気をつけたいのは、入金された売掛金は自分のお金ではないという点です。すでに債権はファクタリング会社に譲渡されているため、口座に入ってきたお金は預かっている状態にあたります。
資金繰りが苦しいときにこの入金へ手をつけてしまうと、単なる契約違反にとどまらず、横領などの責任を問われる可能性が出てきます。ここは破産を検討するかどうか以前の問題として、手をつけずにおくべきお金です。
弁護士に破産を依頼する予定があるなら、送金してよいかどうかも含めて、先に相談してください。すでに支払不能に近い状態であれば、特定の債権者にだけ支払うこと自体が後述の否認権に関わってきます。
破産手続でファクタリングが問題になる3つの場面【否認権】
破産手続が始まると、裁判所から破産管財人が選任されます。破産法2条12項に定義される、破産財団に属する財産の管理と処分をおこなう人です。
管財人には否認権があります。破産手続開始の前におこなわれた取引でも、債権者全体の利益を損なうものは効力を失わせることができる、という制度です。ファクタリングに関係し得る条文は3つあります。
| 条文 | 対象となる行為 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 破産法160条 | 債権者を害することを知ってした行為 | 支払停止後の行為、無償行為が対象になりやすい |
| 破産法161条 | 相当の対価を得てした財産の処分 | 3要件すべてを満たす場合に限られる |
| 破産法162条 | 特定の債権者への担保供与・弁済 | 支払不能後の偏った支払いが対象 |
破産法161条|「相当の対価を得た売却」は原則として否認されない
ファクタリングは、売掛債権を対価と引き換えに売る行為です。そのため中心になるのは161条です。
同条1項が否認を認めるのは、次の3つをすべて満たす場合に限られています。
- 不動産の金銭への換価など、財産の種類を変えることで、隠匿や無償供与などの処分をするおそれを現に生じさせるものであること
- 破産者が、その行為の当時、隠匿等の処分をする意思を持っていたこと
- 相手方が、その当時、破産者の隠匿等の処分意思を知っていたこと
条件が3つ重なるため、通常の資金繰りのために相場の範囲でおこなわれたファクタリングが161条で否認されるケースは、実務上は限定的です。同条2項では、役員・親会社・親族などが相手方の場合に悪意が推定されるとされていますが、独立したファクタリング会社との取引には当てはまりにくいでしょう。
破産法160条3項|「無償行為」と評価されないための注意
160条3項は、支払の停止等の後、またはその前6か月以内におこなわれた無償行為について、相手方の主観を問わずに否認できると定めています。
売掛金の額に比べて買取代金が極端に低い取引は、差額部分について実質的に無償で財産を渡したのと変わらないと評価される余地があります。手数料が相場からかけ離れていないかは、この観点からも確認しておきたい点です。
破産法162条|特定の債権者にだけ支払ってしまった場合
162条1項1号は、支払不能になった後、または破産手続開始の申立て後に、既存の債務について担保を提供したり弁済したりした行為を否認の対象としています。相手方がその事実を知っていたことが要件です。
2社間ファクタリングで、売掛先から入金されたお金を「約束だから」とファクタリング会社に送金する行為は、状況によってこの条文の射程に入ることがあります。すでに支払いが止まっている段階では、自己判断で動かず弁護士の指示を仰いでください。
同条3項では、破産手続開始の申立て前1年以内に支払停止があった場合、その後の行為について支払不能であったことが推定されるとされています。
免責不許可事由に当たるのか|破産法252条1項2号・5号と裁量免責
免責は、破産手続のあとに残った債務の支払義務を免除してもらう制度です。ここは個人の自己破産だけの論点になります。
破産法252条1項は、各号のいずれにも当たらない場合に免責許可の決定をすると定めています。ファクタリングに関係し得るのは主に2つの号です。
| 号 | 条文の内容(要旨) | ファクタリングとの接点 |
|---|---|---|
| 1項2号 | 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、または信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと | 相場を大きく超える手数料での繰り返し利用 |
| 1項5号 | 申立ての1年前の日から開始決定までの間に、破産原因があることを知りながら、ないと信じさせるため詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと | 支払不能を隠して契約した、架空の売掛金を提示した |
2号|「著しく不利益な条件」が問題になる
高い手数料を払いながらファクタリングを繰り返し、結果として破産の時期を先送りしただけになっていた場合、2号に触れる可能性が指摘されます。
ただし条文は「破産手続の開始を遅延させる目的で」と定めており、事業継続のために資金を確保する目的だったのであれば、目的要件の評価は変わってきます。ここは個別の事情によります。
5号|「詐術」は事実と異なる説明のこと
すでに支払不能であることを知りながら、それを隠して契約した場合や、実在しない売掛金の請求書を提出した場合が5号にあたります。
架空債権の提示は、免責の問題にとどまらず詐欺罪に問われる可能性がある行為です。売掛金を二重に譲渡することも同様です。
該当しても免責が認められることがある|252条2項
見落とされやすいのが252条2項です。1項各号に当たる場合であっても、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」と定めています。
これが裁量免責と呼ばれるものです。1項に触れそうだから免責は無理だ、と自己判断で結論を出す必要はありません。事情を整理して申し立てることに意味があります。
法人の破産と個人の自己破産|免責があるのは個人だけ
ここは混同されやすい部分なので、分けて整理します。
| 比較項目 | 法人の破産 | 個人の自己破産 |
|---|---|---|
| 免責の制度 | ない | ある(破産法248条1項) |
| 手続後の扱い | 清算目的の範囲で存続が擬制される(同35条) | 免責が認められれば支払義務を免れる |
| 免責不許可事由 | 適用されない | 破産法252条1項各号 |
破産法248条1項は「個人である債務者は、免責許可の申立てをすることができる」と定めています。免責は自然人だけの制度で、法人には免責という概念がありません。
法人については破産法35条が、破産手続開始の決定によって解散した法人は「破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす」と定めています。
裁判所の案内でも、個人を債務者とする破産手続の申立てがあれば原則として免責許可の申立てもあったとみなされる、と説明されています。手続の概要は法テラスにも整理があります。
なお、法人の代表者が会社の債務を連帯保証している場合、会社を清算しても保証債務は残ります。この点については後半の経営者保証に関するガイドラインの項目も参照してください。
「ファクタリング」を名乗る違法な貸付けの見分け方|金融庁の注意喚起から
ファクタリングというサービス自体は適法な資金調達手段です。一方で、金融庁は、ファクタリングを装って高金利の貸付けをおこなうヤミ金融業者が存在するとして注意を呼びかけています。
同庁は、ファクタリングとして買い取ったはずの債権について次のような要素がある場合、貸金業に該当するおそれがあるとしています。契約書にノンリコース(償還請求権なし)と書いてあるかどうかではなく、経済的な実態で判断されるという整理です。
| 確認したい点 | 注意が必要なサイン |
|---|---|
| 買取代金の水準 | 債権額に比べて著しく低額 |
| 未回収時の扱い | 売主が債権を買い戻す取り決めがある |
| 支払いの原資 | 売掛先ではなく売主自身の資金で支払う建て付け |
| 分割・返済の有無 | 「返済」「利息」に近い形で分割払いを求められる |
| 事業者の情報 | 商号・所在地・連絡先が確認できない |
給与ファクタリングは貸金業に該当する
金融庁は、個人が勤務先に対して持つ給与債権を買い取るいわゆる「給与ファクタリング」について、貸金業に該当するとの見解を示しています。
この点は最高裁でも判断されています。最高裁判所第三小法廷 令和5年2月20日決定(令和4年(あ)第288号)の事案では、譲渡の対象が賃金債権であり、譲受人が自ら使用者に支払を求められず、労働者が事実上自ら買い戻さざるを得ない状況にありました。
最高裁は、こうした事情のもとでは、形式的には債権譲渡の対価であっても貸金業法2条1項および出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条3項にいう「貸付け」に当たると判断しました。
無登録営業と上限金利の罰則
貸金業を営むには貸金業法3条1項の登録が必要です。同法11条1項は無登録での営業を禁じており、違反には同法47条2号により10年以下の拘禁刑もしくは3,000万円以下の罰金、またはその併科が定められています。
出資法5条3項は、業として年109.5%(うるう年は109.8%、1日あたり0.3%)を超える利息の契約をした場合に、10年以下の拘禁刑もしくは3,000万円以下の罰金、またはその併科を定めています。同条2項では、業として年20%を超える場合に5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金とされています。
年109.5%を超える利息の契約は、消費貸借契約そのものが無効になります。「返さなければならない」と思い込んでいた債務が、法律上は支払う必要のないものだったというケースもあり得ます。心当たりがある場合は弁護士に契約書を見てもらってください。
自己破産の前に検討したい公的な選択肢【6つの窓口】
ここが本記事でいちばん伝えたい部分です。破産は最後の手段であり、その手前に使える制度は思っている以上に残っています。しかも多くが無料です。
| 窓口・制度 | できること |
|---|---|
| 中小企業活性化協議会 | 収益力改善・再生・再チャレンジの相談(無料) |
| よろず支援拠点 | 経営全般の相談(何度でも無料) |
| 中小企業の事業再生等に関するガイドライン | 私的整理による事業再生・廃業の手続 |
| 経営者保証に関するガイドライン | 保証債務の整理、手元資産の残し方 |
| 日本政策金融公庫 経営環境変化対応資金 | 業況悪化時の資金繰り支援 |
| 取引かけこみ寺 | 売掛金の未払い・取引条件の相談(無料) |
① 中小企業活性化協議会|全都道府県に無料の相談窓口がある
中小企業活性化協議会は、中小企業庁が所管し、全都道府県に設置されている公的な支援機関です。2022年に中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターが統合して現在の形になりました。運営は各地の商工会議所などが担っています。
協議会自身がおこなう支援は3つあります。
収益力改善支援
資金繰りが厳しい段階で、収支計画の策定と金融機関との調整を支援します。
プレ再生支援・再生支援
金融支援を伴う再生計画の策定を支援します。金融機関との調整も協議会が入ります。
再チャレンジ支援
事業の継続が難しい場合に、円滑な廃業と経営者の再スタートを支援します。
相談は無料で、秘密は守られます。事前予約制です。ただし、すでに民事再生や破産の申立てをおこなった企業は対象外となるため、動くなら申立ての前です。全国本部の情報は中小機構にもあります。
② よろず支援拠点|何度でも無料で相談できる
よろず支援拠点は、中小企業庁の「中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業」として全国47都道府県に置かれた相談窓口です。相談は何度でも無料で受けられます。
資金繰りだけでなく、売上、人手、事業承継まで幅広く扱います。全国の拠点一覧はよろず支援拠点全国本部から探せます。
当事務所でも補助金申請・事業計画支援をおこなっています。現在使える制度は補助金・支援制度まとめに整理しています。
③ 中小企業の事業再生等に関するガイドライン|裁判所を使わずに整理する
中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、中小企業の事業再生等に関する研究会(事務局:一般社団法人全国銀行協会)が2022年3月に策定し、同年4月15日から適用が始まった準則です。現行版は2026年3月の改定版です。
裁判所の手続によらない私的整理の進め方を定めたもので、再生型と廃業型の両方の手続が用意されています。金融庁も事業再生に関する主な取組みのページで取り上げています。
私的整理には、法的整理に比べて取引先に知られにくいという特徴があります。事業を残せる可能性があるなら、まずこちらを検討する価値があります。
④ 経営者保証に関するガイドライン|個人保証をどう整理するか
経営者保証に関するガイドラインは、経営者保証に関するガイドライン研究会(事務局:日本商工会議所・全国銀行協会)が平成25年12月に公表し、平成26年2月から適用されている準則です。
会社を清算する場面で重要になるのが、廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方です。令和4年3月に公表され、令和5年11月に改定されています。
この文書には「主たる債務者が廃業したとしても、保証人は破産手続を回避し得る」と明記されています。会社を清算しても、経営者個人が必ず破産することになるわけではない、ということです。
押さえておきたい点は3つあります。
残存資産の考え方
廃業手続に早期に着手したことで回収見込額が増えたと合理的に見積もれる場合、その増加額を上限として、事業清算後の新たな事業の開始などのために、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅を保証人の残存資産に含めることを検討する、とされています。早く動くほど手元に残せる可能性が上がるという設計です。
ゼロ円弁済も許容され得る
保証人に自由財産を超える保有資産がないなど、保証履行能力の状況によっては、弁済する金額がない弁済計画も許容され得ると明記されています。
免責不許可事由がないことが要件になる
経営者保証に関するガイドライン第7項(1)ニ)は、保証人に破産法252条1項(第10号を除く)の免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないことを要件としています。前述の免責不許可事由の論点は、破産するかどうかだけでなく、破産を回避できるかどうかにも関わってきます。
なお同ガイドラインは、中小企業活性化協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、中小企業の事業再生等に関するガイドライン、特定調停などを「準則型私的整理手続」として位置づけています。前述の窓口とつながっている制度です。
⑤ 日本政策金融公庫 経営環境変化対応資金|いわゆるセーフティネット貸付
日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金は、外的要因により一時的に業況が悪化しているものの、中長期的には回復と発展が見込まれる事業者を対象とした融資制度です。
融資限度額は事業区分によって異なります。
| 事業区分 | 融資限度額 |
|---|---|
| 国民生活事業 | 7,200万円 |
| 中小企業事業(直接貸付) | 7億2千万円 |
返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間3年以内)です。売上が一定割合以上減少しているなどの要件があるため、該当するかどうかは公庫の窓口で確認してください。
⑥ 取引かけこみ寺|売掛金が回収できないときの相談先
売掛先からの入金が滞っていることが資金繰り悪化の原因なら、取引かけこみ寺が使えます。2026年1月1日に「下請かけこみ寺」から名称が変わりました。
公益財団法人 全国中小企業振興機関協会が中小企業庁の委託を受けて運営しており、全国48か所に窓口があります。相談員への相談も弁護士相談も無料で、ADR(裁判外紛争解決手続)の費用もかかりません。弁護士相談を除き匿名での相談も可能です。詳細は全国中小企業振興機関協会のページにあります。
関連して、いわゆる下請法は製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)へと改められています。
民事再生という選択肢もある
事業を続けながら債務を整理する道として、民事再生法による再生手続があります。同法1条は、経済的に窮境にある債務者について、債権者の多数の同意と裁判所の認可を受けた再生計画により事業または経済生活の再生を図る手続だと定めています。
個人の場合は個人再生が用意されています。小規模個人再生は同法221条1項により、将来において継続的または反復して収入を得る見込みがあり、住宅資金貸付債権などを除く再生債権の総額が5,000万円を超えないことが要件です。給与所得者等再生は同法239条1項に定めがあります。
資金繰りが行き詰まる前のファクタリング|事業者を選ぶときの確認ポイント
ここからは、まだ破産の段階ではなく、売掛金の入金待ちをつなぎたいという方向けの内容です。
ファクタリングは、使い方を誤ると手数料負担が資金繰りをさらに圧迫します。逆に、入金サイクルのズレを埋める一時的な手段として使う限りは、有効な選択肢になり得ます。
選ぶときに確認したい6つの観点
| 確認する項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 手数料 | 料率と、それ以外に発生する費用の有無 |
| 償還請求権 | 売掛先が支払えなかったときに返還を求められるか |
| 契約形態 | 2社間か3社間か。売掛先への通知の有無 |
| 債権譲渡登記 | 必要か不要か。必要なら費用と手続 |
| 運営会社 | 商号・所在地・代表者が公式サイトで確認できるか |
| 入金までの時間 | 申込から着金までの実際の流れ |
とくに償還請求権は確認しておきたい点です。売掛先が倒産したときに買い戻しを求められる契約は、金融庁が偽装ファクタリングの疑いがある要素として挙げているものと重なります。
主なオンライン型ファクタリングサービス
以下は各社の公式サイトに記載されている内容です。条件は変更されることがあるため、申し込む前に各社の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
| サービス | 運営会社 | 公式サイトに記載の主な条件 |
|---|---|---|
| ビートレーディング | 株式会社ビートレーディング | 2者間・3者間に対応。買取可能金額は無制限とし、1万円〜7億円の買取実績を掲載。償還請求権のないノンリコース契約と明記 |
| アクセルファクター | 株式会社アクセルファクター | 2社間・3社間に対応。最大1億円まで。全ての取引がノンリコースと明記。債権譲渡登記は必須ではないが審査結果により設定を求める場合あり |
| QuQuMo | 株式会社アクティブサポート | 2社間契約。手数料1%から。債権譲渡登記の設定不要と明記。クラウドサインで契約を締結し面談不要 |
| labol(ラボル) | 株式会社ラボル | 買取金額の10%が一律。1万円から。申請から入金まで最短30分、24時間365日対応。取引先が倒産した場合も返還を求めないとFAQに記載 |
| ペイトナー ファクタリング | ペイトナー株式会社 | 一律10%の手数料のみ。1万円から、初回は50万円まで。支払期日まで70日以内の請求書が対象 |
| PAYTODAY | Dual Life Partners株式会社 | 手数料1〜9.5%。AI審査30分、最短30分振込。債権譲渡登記はおこなわないと明記 |
※並び順は各社の優劣を示すものではありません。記載内容は2026年8月時点で各社公式サイトに掲載されていた情報にもとづきます。
アクセルファクターの手数料については、同社サイト内の料金表で3社間0.5%〜10.5%/2社間1.0%〜12.0%とされている一方、他のページには異なる記載もあります。申込前に最新の料金表で確認してください。
ビートレーディングは2024年度実績として、2者間の平均手数料10.3%、3者間6.8%を公表しています。
なお、labol・ペイトナー・PAYTODAYの3社は「ノンリコース」「償還請求権」という語を使わず、売掛先が支払えなかった場合に返還を求めない旨をFAQや規約で説明しています。表現は異なりますが、確認すべき内容は同じです。
破産を選ぶ場合の流れと費用の目安
再建が難しいと判断した場合の手続についても触れておきます。
同時廃止と管財事件
破産法216条1項は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定をすると定めています。これが同時廃止です。
東京地方裁判所民事第20部(倒産部)は、管財事件として進めるのが原則であり、管財か同時廃止かは裁判所の専決事項だと説明しています。原則として管財事件になる例として、現金33万円以上を保有している場合、換価対象資産が20万円以上ある場合、債務者が法人である場合、法人代表者や個人事業者である場合などが挙げられています。
事業をおこなっていた方の破産は、管財事件になる可能性が高いと考えておくとよいでしょう。
予納金の目安
| 区分 | 予納金(東京地方裁判所) |
|---|---|
| 同時廃止 | 13,046円(現金納付の場合14,000円) |
| 管財事件(自己破産申立て) | 最低20万円+官報公告費用(法人16,264円/個人20,397円) |
出典は東京地方裁判所「破産事件の手続費用一覧」(令和8年1月1日現在)です。予納金の額は裁判所によって異なります。申立てを予定している裁判所の運用を確認してください。
なお、これとは別に弁護士へ依頼する費用がかかります。
参考|足元の倒産件数
東京商工リサーチの全国企業倒産状況によると、2025年(暦年)の全国の企業倒産は10,300件で、前年比2.9%増でした。負債総額は1兆5,921億9,000万円(前年比32.0%減)です。負債1億円未満の倒産が7,892件(構成比76.6%)を占めており、小規模な事業者の割合が高い状況が続いています。
同じ状況で悩んでいる事業者は少なくありません。ひとりで抱え込まず、早い段階で相談先を持ってください。
ファクタリングと自己破産に関してよくある質問【FAQ】
- ファクタリングを利用していたら自己破産できませんか。
-
利用していたこと自体を理由に、破産手続の開始や免責が否定される仕組みは法律上ありません。破産手続開始の要件は破産法30条1項に定められており、ファクタリングの利用は要件に含まれていません。ただし、取引の内容によっては否認権や免責不許可事由が問題になることがあるため、契約書と入出金の記録を揃えて弁護士に相談してください。
- 破産の直前に利用したファクタリングは否認されますか。
-
相当の対価を得た財産の処分は破産法161条の対象ですが、同条は3つの要件をすべて満たす場合に限って否認を認めています。通常の資金繰りのために相場の範囲でおこなわれた取引が否認されるケースは、実務上は限定的です。一方で、買取代金が債権額に比べて著しく低い場合は、破産法160条3項の無償行為として評価される余地があります。
- ファクタリング会社への支払いも自己破産で免除されますか。
-
すでに債権が譲渡されていて、あなたに残っているのが「回収した金銭を引き渡す義務」である場合、その扱いは契約の内容によって変わります。一方、実態が貸付けと評価される契約であれば、破産債権として扱われることになります。契約書の内容によって結論が変わるため、書面を持って弁護士に確認してください。
- 2社間ファクタリングで入金された売掛金を運転資金に使ってしまいました。
-
すでにファクタリング会社へ譲渡された債権の回収金であり、あなたのお金ではありません。契約違反にとどまらず、責任を問われる可能性があります。今後の入金には手をつけず、状況を正確に伝えたうえで弁護士に相談してください。隠すことがもっとも状況を悪くします。
- 自己破産すると売掛先にファクタリングの利用が知られますか。
-
3社間の場合はすでに売掛先の承諾を得ているため、はじめから把握されています。2社間の場合でも、破産手続では債権者への通知や管財人による調査がおこなわれるため、結果として知られることがあります。取引への影響を抑えたい場合は、破産の前に中小企業の事業再生等に関するガイドラインによる私的整理を検討する余地があります。
- 手数料が高いファクタリングを繰り返していました。免責は受けられませんか。
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破産法252条1項2号は「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し」た場合などを免責不許可事由としています。ただし同条2項は、各号に当たる場合でも一切の事情を考慮して相当と認めるときは免責許可の決定ができると定めています。自己判断で諦めず、経緯を整理して申し立ててください。
- 「ファクタリング」と言われて契約したのに、買戻しを求められています。
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金融庁は、売主が債権を買い戻す取り決めがあるものや、売主自身の資金で支払う建て付けになっているものについて、貸金業に該当するおそれがあると注意喚起しています。契約書の表題ではなく経済的な実態で判断されます。契約書を持って弁護士に相談してください。年109.5%を超える利息の契約は、消費貸借契約自体が無効です。
- 自己破産した後にファクタリングを利用できますか。
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ファクタリングは融資ではないため、信用情報機関に登録される「事故情報」を直接の審査対象としない事業者もあります。ただし審査基準は各社が独自に定めており、利用できるかどうかは事業者と売掛債権の内容によります。各社の公式サイトまたは問い合わせ窓口で確認してください。
- 会社を破産させると、代表者個人も必ず破産することになりますか。
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会社の債務を代表者が連帯保証している場合、会社の清算後も保証債務は残ります。ただし「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」には「主たる債務者が廃業したとしても、保証人は破産手続を回避し得る」と明記されています。同ガイドラインに沿って整理できれば、個人の破産によらずに保証債務の減免を受けられる可能性があります。金融機関との交渉が必要になるため、中小企業活性化協議会や弁護士に相談してください。
- 破産する前に、まず何をすればよいですか。
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契約書・請求書・通帳・決算書を揃えたうえで、無料で使える公的窓口に相談してください。中小企業活性化協議会は全都道府県にあり、相談は無料です。よろず支援拠点は何度でも無料で利用できます。なお、中小企業活性化協議会は民事再生や破産の申立てをおこなった企業を対象外としているため、動くなら申立ての前です。
【まとめ】ファクタリングを使った後でも自己破産はできる
ファクタリングは法的には債権の売買であり、利用歴があること自体が自己破産を妨げることはありません。論点は、取引の内容が否認権や免責不許可事由に触れるかどうかです。
押さえておきたい6つのポイント
① ファクタリングは借入れではなく債権の売買
金融庁も「法的には債権の売買(債権譲渡)契約です」と説明しています。破産手続では、すでに終わった資産の売却として扱われます。
② 否認権の中心は破産法161条
相当の対価を得た財産の処分が否認されるのは、3つの要件をすべて満たす場合に限られます。通常の資金繰りのための取引が否認されるケースは実務上は限定的です。
③ 免責不許可事由に当たっても裁量免責の余地がある
破産法252条1項2号・5号に触れる可能性があっても、同条2項の裁量免責があります。自己判断で諦める必要はありません。
④ 経済的な実態が貸付けなら別の話になる
買戻しを求められる、売主自身の資金で支払う建て付けになっている——こうした要素があれば、貸金業法・出資法の問題として整理し直す必要があります。最高裁も令和5年2月20日決定で同様の判断枠組みを示しました。
⑤ 会社を清算しても経営者個人の破産を回避できる可能性がある
「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」は「主たる債務者が廃業したとしても、保証人は破産手続を回避し得る」と明記しています。早く着手するほど手元に残せる資産が増える設計になっています。
⑥ 破産を決める前に使える無料の窓口がある
中小企業活性化協議会、よろず支援拠点、取引かけこみ寺。いずれも無料で、全国に窓口があります。中小企業活性化協議会は申立て後は対象外になるため、動くなら申立ての前です。
相談する前に揃えておきたい書類
| 準備するもの | |
|---|---|
| □ | ファクタリングの契約書(全社分・約款を含む) |
| □ | 買取代金の入金と支払いがわかる通帳の写し |
| □ | 売掛金の請求書と入金予定がわかる資料 |
| □ | 直近2〜3期分の決算書または確定申告書 |
| □ | 借入金の残高がわかる書類と返済予定表 |
| □ | 経営者保証の有無がわかる契約書 |
結論
売掛金の入金待ちをつなぐ一時的な手段としてファクタリングを使うのであれば、手数料と契約条件を確認したうえで選べば足ります。しかし2回目、3回目と続いているのであれば、それは資金調達の問題ではなく収益構造の問題である可能性があります。
その段階で相談してもらえれば、まだ打てる手が残っていることが少なくありません。破産を検討するところまで来ていたとしても、免責の道は閉じていませんし、経営者保証を個人の破産によらずに整理できる可能性もあります。
まずは無料で使える窓口へ。動けるうちに動くことが、いちばん選択肢を残します。
大分県内の事業者の方であれば、当事務所でも相談・面談の予約を受け付けています。制度の使い分けや金融機関との向き合い方について、お問合せからご連絡いただいても構いません。



